そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

読んだ本・観たもの

「生命の源は宇宙から?」みたいな言い方は、科学の報道として疑問

「はやぶさ2が小惑星から持ち帰った砂から、アミノ酸のいろんな種類がみつかった」ということについての“「生命の源」は宇宙から?”みたいな言い方の報道。これに対し、私はどうもひっかかります。 アミノ酸はタンパク質の材料で、生命(細胞)はおもにタン…

生命誕生からの生物進化の歴史・3分で読めるようにまとめてみた

まず、前口上を。私は小学生2年のときに、学習マンガなどで「この地球上の生命は単純な微生物から30~40憶年かけて進化・枝分かれしたものだ」ということをはじめて知りました。そうだったんだ! とくに学校の図書館にあった井尻正二作・伊東章夫絵『先祖を…

現代におけるコミュニティの衰退・パットナム『孤独なボウリング』を今あらためて読む

よく言われることではありますが、現代社会(先進国)で顕著な変化のひとつに「コミュニティの衰退と個人主義化」があるでしょう。人びとが従来的なコミュニティのつながりを失って、ばらばらの個人になっていく――これは私たちの多くが感じているはずです。 …

漢字の書体(楷書・行書・草書など)の歴史・「初めに楷書」ではない

漢字の書体で、私たちがまず習うのは楷書(かいしょ)という、字画を略したり続けたりせずきちんと書く書体です。 楷書 そして、やや崩れたやわらかい書体である行書(ぎょうしょ)や、さらに崩れた、流れるような書体の草書(そうしょ)もあります。 草書(…

戦争という破壊がもたらした平等化

歴史学者のウォルター・シャイデルによる、世界上のさまざまな「破壊がもたらした平等化」を扱った『暴力と不平等の人類史』(東洋経済新報社、2019年、原著2017年、鬼澤忍・塩原通緒訳)という本があります。 その本では、アジア太平洋戦争による「平等化」…

「技術革新がペースダウンしている」という説

美術・音楽・文学などのさまざまな表現で、20世紀末以降「新しいものが生まれにくくなっている」ということは、専門家やマニアのあいだでたまに言われます。私もそのように思っている1人。 ただ、文化的な領域で「何が新しいか」は、感覚的・主観的なところ…

「シン・ウルトラマン」をみた・社会の変化がゆっくりになっている

映画「シン・ウルトラマン」をみてきました。いろんな評価があるようですが、私は楽しい時間を過ごすことができました。50代後半の、初代ウルトラマンに夢中になった世代だからでしょう。 あの映画は、そういう世代のための「ウルトラマン祭り」です。「世界…

「バブル」「高度成長期」っていつのこと? 基本の年代をおさえる

カフェで隣のビジネスマンたちが「1995~96年」を「バブルの頃」だと話すのを耳にしたことがあります。でも日本の「バブル経済」は1986年から91年(あるいは 90年)にかけてのこと。 また、かなり有名な、ある映画のDVDのパッケージでは、映画の舞台の「昭和…

世界史の時代区分・三区分法

時代区分とは、歴史的な時間の流れをいくつかに区切ることです。日本史では「奈良」「平安」「鎌倉」……といった「〇〇時代」の区分が最もおなじみです。 世界史の時代区分では、「古代・中世・近代」の「三区分法」というものがあります。 【古代】紀元前350…

ナイチンゲールは何をした人?「白衣の天使」ではおさまらない

5月12日は、フローレンス・ナイチンゲール(1820~1910 イギリス)の誕生日です。そしてこの日は、彼女の誕生日にちなみ「看護の日」とされているそうです(1990年制定)。 ではそもそも、ナイチンゲールは何をした人だったのでしょうか? 多くの人を救った…

中銀カプセルタワーの取り壊し・「なつかしい未来」の建築

この変わった建物は東京都中央区にある中銀(なかぎん)カプセルタワービル。建築家・黒川紀章(1934~2007)の設計で、1972年に建てられました。 そして、今年の4月に取り壊しが始まっていたことを、私は一昨日のNHKニュースで知りました。写真は2019年に撮…

アニメは大人の教養になってきた・津堅信之『日本アニメ史』

このあいだ旅先の書店でみかけて、新刊の津堅信之『日本アニメ史』(中公新書、2022年)を買い、新幹線の中などで読みました。日本のアニメの歴史を、大正時代における始まりからつい最近まで述べた本。 まず興味をひかれたのが「中公新書という老舗の新書で…

最初の文字記録には何が書かれていたか

世界最古の文字は、今から5300年ほど前にメソポタミア(今のイラク、シリア)のウルクという都市で生まれました。葦の茎を斜めに切ったペンで粘土板に刻んだ文字です。 5000数百年前というのは、文明の始まりの時代です。また、漢字の原型である甲骨文字の誕…

今日の名言 ヘーゲル&エンゲルス 自由とは必然性の洞察

【今日の名言】 自由とは、必然性の洞察である。 これは哲学者ヘーゲル(1770~1831)の言葉として紹介されることもありますが、じつはヘーゲルの発想を共産主義の思想家エンゲルス(1820~1895)がまとめたものです。 「対象の性質や構造を知り、それに応じ…

今日の名言 ヘーゲル 従僕の目に英雄なし

【今日の名言】ヘーゲル(ドイツ観念論の哲学者、1770~1831) 従僕の目に英雄なし。 この言葉は、哲学者ヘーゲルの『歴史哲学講義』(上・下、岩波文庫、長谷川宏訳)で知りました。ヘーゲルの創作ではなく、「そういう言葉がある」という形で紹介されてい…

レイチェル・カーソン・『沈黙の春』の著者は物静かな自然オタク

4月14日は『沈黙の春』の著者、レイチェル・カーソン(1907~1964、アメリカ)の亡くなった日です。彼女は科学者で、科学啓蒙書の著者として成功した人です。 彼女の代表作『沈黙の春』は、1962年に出版されました。農薬による環境破壊を警告した、今のエコ…

戦争を回避するために必要なこと・オルテガ・イ・ガセットの「平和主義について」

オルテガ・イ・ガセット(1883~1955)は、大衆社会批判の古典である『大衆の反逆』(1930年)を書いたスペインの思想家です。 彼はそのほかにもいろんなテーマを論じていて、そのひとつに「平和主義について」という、1937年に書かれた文章があります。 193…

『チ。‐地球の運動について‐』に描かれているのは地動説の史実でなく「本質」

この間、魚豊(うおと)『チ。‐地球の運動について‐』というマンガの1巻から7巻までを一気に読みました。前から気になっていた作品。 「チ」とは、地動説のことです。天動説を正統とする権力が支配する世界で、危険思想である地動説を探究し、権力による弾圧…

戦争を終わらせる難しさ・千々和泰明『戦争はいかに終結したか』

昨年(2021年)に出版された、千々和泰明『戦争はいかに終結したか』(中公新書)という本があります。世界大戦、ベトナム戦争、湾岸戦争などの1900年代以降のいくつかの大きな戦争の終結過程を述べた本です。 「戦争終結」というテーマは、たしかに重要です…

計量カップの考案者・香川綾という昭和の巨人

あなたは、台所で使う「計量カップ」や「計量スプーン」(大さじ・小さじ)を生み出したのが、日本人であることを知っていますか? それらは、医師で栄養学者の香川綾(かがわあや、1899~1997)が、1948年頃に考案したものです。3月28日は彼女の誕生日です…

「う」のひきだしの情報術・向田邦子のエッセイから

作家・向田邦子さん(1929~1981)は、おいしいものが大好きでした。彼女のエッセイに食べ物のことはよく出てきます。お菓子や酒の肴や日常の食品について「どこの何がうまいか」に詳しかった。 そんな向田さんは、“「う」のひきだし”というものをつくってい…

「ジョブ型・メンバーシップ型」で日本の雇用システムを読み解く

少し前に濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書、2021年)を読みました。 この本によれば、雇用システムの2つのあり方として「細分化した業務(ジョブ)に専門の労働者を割り当てる」(ジョブ型)と「多くの職務を遂行する労働者で組織が成り立…

今日の名言 光あるうち光の中を歩め

【今日の名言】トルストイ(ロシアの文豪、1817~1875) 光あるうち光の中を歩め。 これは新約聖書のイエスによる言葉で、それをトルストイが中編小説のタイトルにしています(原久一郎訳)。そして、終わりのほうで登場人物による語りのなかに出てきます。 …

今日の名言 その問題を解きたいか? 問題発見の人間学

【今日の名言】ゴース、ワインバーグ著『ライト、ついてますか 問題発見の人間学』より 私は(われわれは)その問題を本当に解きたいか? ゴースとワインバーグは技術的問題に詳しいコンサルタント。問題に対処するとき、この言葉で自問してみては? 私たち…

日本の若者が希望を抱きにくい原因は「社会の硬直性」か

内閣府が2013年に行った「若者の意識」についての国際的な調査があります。日本および6か国の若者(13歳~29歳)を対象としたもの。 その質問項目に「自分の将来に明るい希望を持っているか?」というのがあります。選択肢は「希望がある」「どちらかといえ…

ブルシット・ジョブ=どうでもいい仕事

人類学者のデヴィッド・グレーバーが打ち出した「ブルシット・ジョブ(bullshit jobs)」という概念があります。訳せば「クソみたいな、どうでもいい仕事」ということ。グレーバーによれば、今のホワイトカラーの仕事の多くが「どうでもいい仕事」である。た…