そういちコラム

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「生命の源は宇宙から?」みたいな言い方は、科学の報道として疑問

「はやぶさ2が小惑星から持ち帰った砂から、アミノ酸のいろんな種類がみつかった」ということについての“「生命の源」は宇宙から?”みたいな言い方の報道。これに対し、私はどうもひっかかります。

アミノ酸はタンパク質の材料で、生命(細胞)はおもにタンパク質でできている。そのアミノ酸が宇宙の天体に存在することがわかった。

今回の発見は、アミノ酸という生命の基本的な材料である物質の起源は宇宙にある(かもしれない)という説を補強するものだ……このこと自体はいいと私も思うのです。

しかし、アミノ酸を「生命の源」とまでいうのは、ここでは話を簡略化し過ぎて、歪めたイメージを一般にあたえるように思います。

これは本来は「タンパク質の源は宇宙から?」などというべきでは?

そもそも「アミノ酸によってタンパク質ができて、タンパク質によって細胞(生命)ができている」と、報道でも説明しています。アミノ酸を「生命の源」というのは、タンパク質の段階をすっ飛ばしている。

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そしてそもそも、アミノ酸とタンパク質のあいだには、大きな隔たりがあります。たとえば、生命誕生について論じたある啓蒙書ではこう述べています。

“20種類のアミノ酸が数百から数千個、それぞれ異なった順番で結合することによって異なった構造のタンパク質になります”(中沢弘基『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』講談社現代新書、56ページ)

アミノ酸からタンパク質ができるのは、どうもたいへんなことのようです。それは科学知識のある人にとっては、あたり前のことなのでしょう。

ではさらに、どのくらいのタンパク質が結合すると、最低限の「生命」ができるのでしょうか?

そのことを明確に書いてある本が、私の手元にはなかったのですが、「最も単純な生命(みたいなもの)」の事例として、タバコモザイクウイルスというものが取り上げられているのは、読んだことがあります。

そのタバコモザイクウイルスは、約2100のタンパク質の分子などでできているのだそうです。

「ウイルスは生命とはいえない(自力で代謝をしないから)」という見方も有力です。でもウイルスのことは「生命みたいなものだけど、その条件を十分に満たさないともいえる、きわめて最低限のあり方」と捉えればいいのでしょう。

つまり、「何百何千のアミノ酸でタンパク質ができていて、そのタンパク質が少なくとも何千か以上集まって、最低限の生命みたいなもの(ウイルス)ができている」ということのようです。

しかも「何百」「何千」という「素材」がただ集まっているのではなく、一定の構造・配列で組みあわさっていないと、ダメなのです。

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このようにアミノ酸から生命までは、大きな隔たりがあるということです。それなのにアミノ酸を「生命の源」と言ってしまうのは、やはり単純化が過ぎるというか、ものごとのあり方を歪めていると思います。

もちろん「生命(“生命の源”ではない)の起源は宇宙から」なんて、生命自体が宇宙に起源があるように匂わせるのは論外です。

この件に関し、大手マスコミには科学専門の記者もいるのだから、こんな「煽る」感じではない、もう少し冷静・客観的な言い方をしてほしかったと思います。

こんなこと、まったくの素人で理数系落ちこぼれの私が言うことではないのですが……

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ところで、ここでは「無生物の世界から生命が生まれるのはたいへんなことだ」と言っています。

すると「生命が生まれるのはそれだけ奇跡的なことなのだから、自然界の一般的な法則を超えた、神秘的な力が働いているのだ」という人がいます。

私はそれに賛同しません。

科学者たちは「生命が生まれるのはきわめて大変なことである」という前提で、生命誕生までの道筋をいろんな角度から研究しています。そちらのほうを私は信用します。

そういう研究でもまだまだわからないことは多く、あとで誤りだとされる説もあるわけですが、科学的な研究という「活動」を信用するということです。

そして「神秘的な力によって」とは言わず「生命は宇宙から来た」という人もいる。でも「そうだとしたら、その宇宙からの生命はどうやって生まれたのだろうか?」と思ってしまいます。

生命を構成するごく簡単な基礎材料は、宇宙から降ってきたのかもしれない。

でも、そこからの生命への過程は、きわめてハードルが高かったにしても、原始の地球における、「神秘」ではない現実的な自然の法則のもとで生まれた――そういう基本的なイメージを私たちはきちんと確認すべきだと思います。

くりかえしますが、そんなこと、私などが言うことではないと思います。

でも、報道でそこをはっきり言う解説者があまりいないようなので、自分なりに書いた次第です(しかし、すでに権威のある人がすでに言っていることかもしれません)。科学や科学報道に詳しい方、補足やまちがいなどあればぜひ教えてください。

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