そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

読んだ本・観たもの

津田梅子・不自由な「母国」で道を切りひらいた女子留学生

明治4年、数名の少女が国費の留学生として米国に渡りました。その最年少が6歳の津田梅子(つだうめこ、1864~1929、元治元年~昭4)でした。彼女は通訳である藩士の娘で、父親は自分の娘に特別な教育(完全な英語力など)を与えたいと考えたのです。 津田梅…

映画『君たちはどう生きるか』は監督の自叙伝で、漫画版『ナウシカ』最終巻の映像化

*以下、映画についてのネタバレを含みます。まだこの映画をご覧になっていない方は、できるだけ予備知識なしでみることをおすすめします。 そもそも巨匠監督の作品を「どんな映画か」まったく知らずにみるなんて、今の時代ではなかなかできない、贅沢なこと…

久しぶりに(テレビで)野球観戦・ムダな時間を心ゆくまで楽しむ

今回のWBCで、私は久しぶりに野球の試合を(テレビの中継ですが)心ゆくまで楽しみました。 今50代後半の私は、子どもの頃(1970年代~80年頃)には、よくプロ野球のナイター中継をみたものです。とくに野球ファンというわけではなかったのですが、野球を…

素人が「科学とは何か」を考えるための本・『サイエンス・ファクト』

ガレス・レン&ロードリ・レン『サイエンス・ファクト 科学的根拠が信頼できない訳』(塚本浩司監訳・多田桃子訳、ニュートン新書、2023年)という本を読みました。イギリスの生理学者である父と、科学社会学的な分野の研究者である息子による共著。 サイエ…

虫プロ倒産のときに手塚治虫を救った、ある社長のこと

マンガ家・手塚治虫は、「虫プロダクション」というアニメーションスタジオを設立し、経営していました。 虫プロは、日本初の(毎週30分放映の)テレビアニメのシリーズである『鉄腕アトム』(1963~66放映)をはじめ、手塚治虫原作の作品を中心にいくつもの…

レジー『ファスト教養』・ファスト教養をただ非難するのではなく「生き方」をまじめに考える本

レジ―著『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書、2022年)を読みました。レジ―さんは、企業に勤める傍ら、音楽をはじめとするポップカルチャーについて、ブログやその他のメディアで発信している方で、1981年生まれ。 「ファスト教養」は、…

「専門の事典を手元に置いて、ちょっと調べる」習慣のすすめ

私はいくつかの小型の専門事典(辞典)を手元において、ときどき参照しています。 「インターネットでたいていのことは調べられる」というのは、たしかにそうでしょう。私もインターネットで調べたり、確認したりということはしょっちゅう行っています。 で…

イギリス・フランスには「関西」がない――そのことの意味は大きい

イギリス史を専門とする歴史学者・川北稔さんに「イギリスに関西はない――首都とは何か」というエッセイがあります(『イギリス 繁栄のあとさき』講談社学術文庫所収)。 「イギリスに関西はない」とは、どういう意味か。 イギリス(ここではイングランドのこ…

「再構成された、空想の日本」をみるたのしさ・映画「ブレット・トレイン」

先日、ブラッド・ピット主演の映画「ブレット・トレイン」(デヴィッド・リーチ監督)をみました。 伊坂幸太郎の小説(私は未読)を原作とする作品。原作の登場人物はみな日本人だそうですが、この映画ではほとんど欧米人に置き換わっています。 ブラッド・…

かこさとし展・かこさとしという「知の巨人」

先日、Bunkamura ザ・ミュージアムで「かこさとし展」(かこさとし展 子どもたちに伝えたかったこと)をみてきました。 かこさとし(加古里子、1926~2018)は、昭和の高度成長期から平成にかけて活躍した著名な絵本作家。「だるまちゃん」シリーズや『から…

日本に影響を受けたフィンランドのイラストレーターHeikalaのこと・「日本に学んだ異文化」に学ぶ

昨晩FMラジオを聴いていたら、日本のシティ・ポップに影響を受けたという、欧米の若手アーティストの新曲が流れてきました。 その曲はすでに有名なアーティストもやっているような「日本の歌謡曲やシティ・ポップを一部取り入れた」というものではありません…

『耳をすませば』における団地の描写・なじんだ風景がちがってみえる

昨日(2022年8月26日)、日テレ系の「金曜ロードショー」で、アニメ映画『耳をすませば』(1995年公開、近藤喜文監督、宮崎駿プロデュース)をやっていました。今回私がみたのは全部ではなく、後半だけ。でももう、3回は通してみている。 『耳をすませば』の…

小松左京のSF短編「地には平和を」・本土決戦が行われたパラレルワールド

SF作家・小松左京(1931~2011)の最初期の作品に「地には平和を」という中編があります(文庫版で50ページほどの長さで「短編」ともいえる。角川文庫『地には平和を』所収)。 太平洋戦争をテーマにした作品で、1960年(昭和35)に書かれたものです。 こ…

「太陽の塔」という幸せなプロジェクト

先日、NHKの『歴史探偵』という番組で、1970年の大阪万博の「太陽の塔」についてやっていました。戦国時代や幕末などのいかにも「歴史」という感じではないテーマは、この番組ではめずらしい。 太陽の塔については、私も関心があります。この番組の内容と…

日本にもっと大規模な、本格的なミュージアムを

今日は夫婦で上野の森へ行ってきました。東京都美術館で開催されている「毎日書道展」をみるためです。書道展として最も代表的なもののひとつ。妻が書道教室を営む書道の先生で、自分やお仲間が毎年出品している。この書道展に行くのは年中行事です。 書道展…

真理がたどった物語・メンデルやコペルニクスの史実と『チ。-地球の運動について-』最終巻が描く歴史の真実

本棚から取り出して、昔に買った古い新書を読みました。中沢信午『遺伝学の誕生 メンデルを生んだ知的風土』(中公新書、1985)――「遺伝の法則」を発見したグレゴール・メンデル(1822~1884、オーストリア)の評伝です。今年(2022年)はメンデル生誕200年…

現代世界と似ている? ビザンツ帝国はどんな国だったか

「ビザンツ帝国」という国に関心があります。教科書ではマイナーな扱いですが、じつは世界史を理解するうえで重要な国です。これまでビザンツ研究の大家・井上浩一さんの著作(『ビザンツ 文明の継承と変容』京都大学学術出版会)を中心に、何冊かの本を読ん…

世界史と日本史のかかわり・世界史上で日本に影響をあたえた国は?

この記事では、世界史と日本史のかかわりについて考えます。 世界と日本のつながりをみるときは「世界史上のどの国が、日本にどのような影響を与えたか」という視点がまず重要だと、私は考えます。 どの国もそうですが、日本の社会や文化も、その歴史のなか…

今日の名言 チャールズ・イームズ 革新は最終手段

【今日の名言】チャールズ・イームズ(米国のデザイナー、1907~1978) 革新は最終手段。 (イームズ・デミトリオス『イームズ入門』日本教文社より) チャールズ・イームズはイスや家具のデザイン、建築、実験的な映像作品、グラフィック、写真などで知られ…

現象に名前を付ける・ベテラン歌手のクセの強い歌い方は「シクラメン現象」

「シクラメン現象」というのは私の造語で、「ベテランの歌手・アーティストに時々みられる、技巧的でクセの強い歌い方」のことです。 この言葉は、布施明さんが「シクラメンのかほり」(1970年代のヒット曲)を歌うのを、ふた昔前にテレビでみていたときに思…

大木毅『独ソ戦』・「絶滅戦争」の恐ろしさを日本人に伝えてくれる本  

先日、大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書、2019年)を読みました。岩波新書の近年のヒット作。部分的には以前に読んでいたのですが、きちんと通読したのは最近です。 この記事は、「独ソ戦って何?」あるいは「聞いたことはあるが、ほとんど何も知…

今日の名言 カント あえて賢くあれ(「啓蒙とは何か」より)

【今日の名言】カント(ドイツの大哲学者、1724~1804)「啓蒙とは何か」より 自分の「悟性(知的な能力)」を使用する勇気を持て!あえて賢くあれ! 世の中には「バカになれ」という人もいるけどご用心。そして「賢くあろうとする」のは、じつは勇気もいる…

建国の父がつくった小さな図書館・アメリカ議会図書館の創設

アメリカ独立を指導した「建国の父」の1人で、第3代大統領になったトマス・ジェファーソン(1743~1826)。彼は、独立当初から「連邦議会の議員の活動(調査研究など)をサポートする図書館=議会図書館」の創設に、関心を持っていました。 アメリカ建国の初…

10年頑張れば、本の1冊も出せる・「職業無料相談」の本多信一さんのこと

本多信一さん(1941~)という人がいます。1970年代から40年以上、職業・キャリアのことで悩む個人を対象に無料の相談(「職業無料相談」などと本多さんは呼ぶ)を行ってきた人です。ただし、現在は相談の仕事は休業となっているようです。 「無料」の相談で…

「タフで強い三蔵法師」のドラマがみたい

先日、だらだらしているときに、本棚から前嶋信次『玄奘三蔵ー史實西遊記ー』(岩波新書、1952)を、ふと取り出して読み返しました。東洋史の大家による、歴史上の人物としての玄奘三蔵(三蔵法師)伝。 今から70年前の新書で、10年以上前に古書店の安売りの…

個人情報が徹底的に守られる社会・『ゲド戦記』の世界から

「数十万人分の個人情報を記録した、市役所のUSBメモリー紛失」というニュース。これには、その市の住民だけでなく、かなりの人が不安や恐れを感じているようです。 「個人情報は、厳格に管理され、守られるべき」ということが、すっかり社会に浸透している…

初心者のための、リベラルと保守、ポピュリズムの基礎知識

リベラルと保守――両者は政治的な立場の代表的なものです。 リベラル(リベラリズム)とは、個人の自由を重視する立場。人は古い価値観や慣習から解放されるべきである。たとえば妊娠中絶、LGBTは生き方の自由に属することで、皆がしたいようにすべきと考える…

何十回もくり返し読む本が、一生に1冊は欲しい

たいていの本は、拾い読みでいいと思います。私の場合、全部読む本は10冊に1冊です。でも、拾い読みだけで終わってはいけません。一生の間に、それこそ何十回もくり返して読む本に出会うのも大事だと思います。 そうでないと、いくら本を読んでも、頭の中が…

「論文入門」というより「学問全般への入門」・小熊英二『基礎からわかる論文の書き方』

このあいだ小熊英二『基礎からわかる論文の書き方』(講談社現代新書、2022年)を読みました。 本書の話をする前に、著者の小熊英二さん(1962~)について。それが本書を語るうえで大事なのです。ご存じの方も再確認ということで。 *** 小熊さんは著名な…

2300年前の学者が残した「1万ページ」の論文集・アリストテレス全集

今週のお題「本棚の中身」 下の写真は私の本棚にある『アリストテレス全集』(全17巻、岩波書店、1968年~73年)。アリストテレス(前384~前322)は古代ギリシアの大哲学者。おおまかに2300年前の人。 この全集は今から30数年前、若いサラリーマンだった頃…