そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

優等生的な発想の限界・今回の自民党総裁選挙

新しい自民党総裁に高市さんが決まりました。マスコミの予想は、だいたい外れました。私も、外れました。

最近、重要な選挙で、マスコミの予想・見立てが外れることが増えていると思います。

たとえば都知事選における石丸旋風、兵庫県知事の出直し選挙などはそうでした。先のアメリカ大統領選挙のトランプ氏の圧勝についても、同じことがいえるでしょう。

優等生の正統派知識人が理解しにくい動きが、今の政治にはあるということです。

もう少しいえば、優等生の知識人が普段接しない、社会的に距離のある人たちの考えを、これまで以上に読めなくなっているということです。それは「社会の分断」ということの一側面です。

ここで「優等生」というのは、「社会のなかで権威や正統性が認められた知識や価値観を高いレベルで習得し、使いこなせる人」という意味で使っています。

そういう人たちは、当然ながら社会の中枢に多くいます。大手のマスコミで働く人たちの主流も、上記の意味での優等生にあたります。

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そこで、マスコミ人に今必要なのは「自分たちは優等生である」ということを率直に認め、自身のなかの「優等生の限界、認識のバイアス」に真剣に向き合うことではないでしょうか。そうでないと、今の社会の動きは理解できないのではないか。

あたり前のことを言っているようですが、これは簡単ではないはずです。

「自分たちは優等生だ(それゆえの限界を有している)」と認めることは、マスコミ人にとっては心理的なハードルがかなりあるでしょう。

たとえば、大手新聞の記者の方に「あなたは優等生ですね」と言ったら、きっと不快に思うはずです。「私はそんなんじゃない」というわけです。

私自身にも、大手マスコミ人のような優秀さには遠く及びませんが、似たような「優等生」の部分があります(今はダメな感じのおじさんですが、子どもの頃は成績も良く、学級委員とかよくやっていました)。だから、その気持ち(心理的ハードル)がなんとなくわかる。

要するに、優等生であると自分で認めることは、優等生的な発想(つまり品行方正な価値観)では恥ずべきことなのです。

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さて、大方の優等生たちの予想に反し、選挙に勝利した高市さんは、どういう人なのか。

その最大の特徴は、女性であること以外では、庶民の出身であることです。彼女は、普通のサラリーマン家庭の出身です。もちろん世襲とは無縁。

そして、タレント・クリエイター・実業家・スポーツ選手などとして成功した経歴もない(テレビなどに出演したことはあっても、成功したとはいえない)。その意味でも「庶民出身」といえるかもしれません。

そういう女性政治家が、ここまでのぼり詰めたのは、歴史の新しい展開を示すものだと思います。

しかし一方で、庶民出身の、他分野での成功者でもない女性が、ここまで来るためには権力の中枢にいる「昭和的な保守のおじさん」の価値観に寄っていかねばならなかった。おじさんたちに忠誠心を認めてもらい、その人たちの後押しをおおいに得る必要があったわけです。それは男性でも大変なことですが、さらに大変だったでしょう。

その方向性を選ぶことなく、多くの「優等生」的な発想で「中道」「リベラル」の立ち位置を選んでいたら(たとえば蓮舫さんのように)、ここまでの政治的成功はなかったはずです。

高市さんは、総裁選のあとに「ワークライフバランスを捨てて頑張る」という、昭和のおじさんでも最近は公には言わないようなことを述べていました。

そこには、これまでの彼女の女性政治家としての苦闘(手強いおじさんに認められるための必死の戦い)がにじみ出ていると感じます。これまで積み重ねてきた「過剰適応(おじさんの価値観に対する)」のあらわれであるともいえる。

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日本初の女性総理が誕生するとしたら、たしかに歴史の前進です。

でも、その女性総理候補は昭和のおじさんのようなことを(今回のワークライフバランスのことにかぎらず)常々言っている。中高年男性の多い自民党員や国会議員の多くも、そんな彼女を選んだ。そこには、麻生さんという昭和的な長老政治家の後押しも、強く作用した。

歴史というのは、単純にわかりやすく前進するわけではないということです。また同時に、単純に古い価値観への反動が起こっているというわけでもない。

新しいことと古いことがごっちゃになって化学反応をおこしながら展開しているといったらいいでしょうか。

優等生的な発想に凝り固まると、そういう「わけのわからない」感じがなかなかのみこめないのではないか。自戒をこめて、そんなふうに最近とくに思います。

それにしても、津田梅子や平塚らいてうや市川房枝や土井たか子が、今の状況をみたら、感銘を受けるとともにいろんな意味で驚くだろうなあ。