そういちコラム

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今日の名言 ヘーゲル&エンゲルス 自由とは必然性の洞察

【今日の名言】

自由とは、必然性の洞察である。

これは哲学者ヘーゲル(1770~1831)の言葉として紹介されることもありますが、じつはヘーゲルの発想を共産主義の思想家エンゲルス(1820~1895)がまとめたものです。

「対象の性質や構造を知り、それに応じた働きかけをすれば、望むことを実現する自由を得られる」という意味。だが「自由とは必然性の洞察」というほうがテツガク的で格好いい。

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この言葉の原典をみてみましょう。エンゲルスの『反デューリング論』(1巻、国民文庫、村田陽一訳)から引用します。

“ヘーゲルは、自由と必然性の関係をはじめて正しく述べた人である。彼にとっては自由とは必然性の洞察である。”

“自由は、夢想のうちで自然法則から独立する点にあるのではなく、これらの法則を認識すること、そしてそれによって、これらの法則を特定の目的のために計画的に作用させる可能性を得ることにある。これは、外的自然の法則にも、また人間そのものの肉体的および精神的存在を規制する法則にも、そのどちらにもあてはまることである。”

“したがって、意志の自由とは、事柄の知識をもって決定を行う能力をさすものにほかならない。だから、ある特定の問題点についてある人の判断がより自由であればあるほど、この判断の内容はそれだけ大きな必然性をもって規定されている”

「自由であるほど必然性に規定されている」というのも、やはりいかにもテツガク的。「規定される」のは、自由と矛盾するようですが、じつはそうではないと。

「ものごとが対立した要素を背負っている状態」のことを(ヘーゲル哲学の「弁証法」の用語で)「矛盾」といいます。自由というのはある種の矛盾を背負ったもののようです。

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さらにエンゲルスは「必然性の認識にもとづいて外界や自分自身を支配する」という意味での自由は「歴史的発展の産物だった」とも述べています。科学や技術に支えられた社会の発展が、人間の自由を拡大してきたということです。

その例として、原始時代における「摩擦(力学的運動)で熱を発生させ火をおこす」という革新や、近代における「熱を力学的運動に転化する装置=蒸気機関」の発明をあげています。

そして、蒸気機関による「巨大な解放的変革」を評価しつつも「それはまだ半分も完成されていない」と述べている。蒸気機関による変革など、火の発明によって人類が動物と区別されるようになった根本的な変革にくらべれば、小さいものだと。

そしてさらに、こう述べます。

その“簡単な事実からみても、人類史全体がまだどんなに若いか、そして、われわれの今日の見解を…絶対的な妥当性をもつもののように考えることがどんなに笑うべきことであるかがわかる。”

つまり、人間はまだまだ「必然性の洞察」による「自由」を拡大できるはずだというのです。

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エンゲルスと盟友のマルクスは「資本主義の社会がこれからどうなるか」という問題については「必然性」を大きく見誤っていたようです。そのことを今の私たちは知っている。そういう大きな問題における「必然性の洞察」は、やはりむずかしいのでしょう。

それでも、エンゲルスのこういう文章を読むと「さすがにものごとを徹底的に考え、突き詰めていく巨匠だ」と感心します。そして、突き詰めた考えを広い視野のなかに位置づけていくところも、やはり見事です。

その思考に触れると、自分の視野が広がっていく感じがします。古めかしい議論だと片づけられない魅力がある。

人間が生んだ、ある種の思考の究極のサンプルがそこにあるように思うのです。

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