そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

「ジョブ型・メンバーシップ型」で日本の雇用システムを読み解く

少し前に濱口桂一郎『ジョブ型雇用社会とは何か』(岩波新書、2021年)を読みました。

この本によれば、雇用システムの2つのあり方として
「細分化した業務(ジョブ)に専門の労働者を割り当てる」(ジョブ型)と「多くの職務を遂行する労働者で組織が成り立つシステム」(メンバーシップ型)がある。

どちらにもそれなりの合理性があります。欧米はジョブ型で、日本はメンバーシップ型です。

この話は最近ときどき見聞きすることがありましたが、「日本もジョブ型を導入すべき」みたいな議論がちょっとあやしい流行に思えて、きちんと知る気にはなりませんでした。

しかし議論の原典である著者(濱口さん)の本を読んで「これは重要な視点だ」と感心しました。日本の雇用システムのいろいろな側面(終身雇用・年功序列・「能力主義」の評価・労使関係・新卒採用等々)を系統だって説明する視点をあたえてくれると。

つまり、「ジョブ型・メンバーシップ型」の概念をもとに、日本の雇用システムを読み解くことができるのです。「メンバーシップ」という本質は、日本の雇用のさまざまな面に深く影響をあたえている。

メンバーシップ型では、社員は会社の都合に合わせて何でもやる以上、長期の雇用(終身雇用)が前提。担当業務が変わる前提なら、給料は業務で決めるのではなくおもに勤続年数で決める。

人事評価の基準となる「能力」とは、会社に合わせて何でも行う生活態度のこと。

そして、欧米のような産業・職能別の組合、つまりジョブを前提とした労働組合は発達せず、企業別組合がメイン。特定のジョブを遂行できる人材を採用するよりも、何もできない新卒の若者を採用して、組織に合わせて育てる。

さらに、本書の著者・濱口桂一郎さんが、最近の「(日本における)ジョブ型導入」論に批判的だということも知りました。

濱口さんによれば、ジョブ型は本来「成果主義」とは異質のものなのに、一部の経営者やコンサルは、ジョブ型を成果主義的なものとして取り入れようとしている、とのこと。そのことで、「成果」の割に高給である中高年社員の賃金引下げをはかろうとしているのではないかと。

この批判があたっているかどうかはともかく、この本を読むと、ジョブ型とメンバーシップ型が根本から異なるモデルだということがわかります。

日本の雇用で、経営者に都合のいいところだけジョブ型を取り入れるのは、たしかに難しい面があるのかもしれません。

本気でジョブ型を取り入れるなら、日本の雇用システムを根本から変えることになるかもしれない。「そこまでの覚悟があるのか」ということが経営者には問われるのでしょう。

***

私はこのブログや世界史をテーマにしたブログのほかに、若者の就活についてのブログもやっています。

9年ほどある組織に属して就活カウンセラーの仕事をしていた(今は退職した)ので、その知見をもとに書いているのです。

そのブログで、この本のことをやや詳しく記事にしました(下にリンクがあります)。さらに知りたい方はご一読いただければ。もちろん濱口さんの本を読むのが一番ですが、私の記事も要約・解説として参考になるかと思います。

 f:id:souichisan:20220317120256p:plain

 

私のブログ「親と教師のそういち就活研究所」記事