そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

中銀カプセルタワーの取り壊し・「なつかしい未来」の建築

この変わった建物は東京都中央区にある中銀(なかぎん)カプセルタワービル。建築家・黒川紀章(1934~2007)の設計で、1972年に建てられました。

そして、今年の4月に取り壊しが始まっていたことを、私は一昨日のNHKニュースで知りました。写真は2019年に撮ったもの。

ドラム式洗濯機みたいな四角い「カプセル」は、10㎡の個室になっています。このカプセルはパーツとして交換可能で、25年で交換する計画でした(実際には行われず)。生物の細胞が代謝で入れ替わるようなイメージです。

それは「メタボリズム(直訳すれば代謝主義)」という、黒川やその仲間が提唱する建築の理念に基づくものでした。「都市や社会が発展するのに合わせて、建築も新陳代謝すべき」ということです。

カプセルの個室は、50年前の当時における最新のテレビやオーディオなどがビルトインされた未来的なインテリアでした。シャワールームはあるが、キッチンはない。寝起きはできるが、本格的な住まいではなく、都会の中のセカンドハウス的なものとしてつくられた。

そういう、非常に尖がったコンセプトやデザインの建物です。私が写真を撮ったとき(2019年)には、何人かの外国人も写真を撮っていました。海外でも知られた建築なのです。

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この建物は、まさに「なつかしい未来」という感じがします。

文明の進歩、都市の輝かしい発展をストレートに信じる精神が、そこにはある。「未来はすごいぞ、明るいぞ」と言っている。50年前、私は小学校に入ったばかりでしたが、その頃に雑誌や本でみかけた「ぴかぴかの未来都市」的なビル。

NHKのニュースでも、解体寸前のこのビルをみた小学生の男の子が「近未来という感じがする」と言っていました。

50年前の建物を今の子どもがみて「近未来」と言うのです。50年前からみて、今はまさに「未来」なんですが、今の東京はあの頃に思い描いた「未来都市」にくらべ、はるかに古めかしく現実的で「未来」的ではないのでしょう。

私も、今の東京をみると「子どものときに思っていた“未来”ではない」と感じます。

そしてあの男の子が大人になった何十年か先の未来でも、中銀カプセルタワーの姿を3D映像などで子どもにみせたら「未来的」と言うような気がします。

おそらく、近代文明の進歩の方向性や変化の速度が、この数十年で変わったのです。このビルは、それを示すひとつのサンプルです。