【今日の名言】
トルストイ(ロシアの文豪、1817~1875)
光あるうち光の中を歩め。
これは新約聖書のイエスによる言葉で、それをトルストイが中編小説のタイトルにしています(原久一郎訳)。そして、終わりのほうで登場人物による語りのなかに出てきます。
キリスト教的解釈はさておき、「できるときに、できることをしよう」「チャンスをつかめ」「命あるかぎり精一杯生きよう」等々、いろんなメッセージが伝わってきます。
私は今、おおむね健康で平穏な日常を送り、好きな活動もできています。日本の国内はコロナなどの不安や、良くない出来事もありますが、戦場にはなっておらず一応平和です。
そういう状況じたいが「光」なのでしょう。
私は信仰を持っていませんが、聖書はこの言葉のような深い名文句の宝庫だとつくづく感じます。
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なお、『光あるうち光の中を歩め』は、こんな小説です――最盛期の古代ローマ帝国。主人公は商売や公職で成功した男。男は初期のキリスト教徒の共同体に接し、その理想に魅かれて「出家」も考えるが、なかなか俗世を捨てられない。登場人物たちの対話を通して晩年のトルストイが傾倒したキリスト教的な理想や、国家や私有財産に否定的な思想が述べられる……
この作品で描かれるキリスト教が、キリスト教の真実の姿なのかどうかはわかりません。
しかし、文明社会の際限のない欲望、多忙さ、孤独などへの批判に基づく、普遍的なある種の理想がそこに述べられている。
私は国家も私有財産もきわめて大事だという社会観ですが、文明社会の忙しくて疲れるところにうんざりしている人間でもある。
だからトルストイが語るような理想には、気持ち的にはひかれるところがあります。
そして、現代にも似た理想を語る人はたくさんいる。似た理想が語られるのは、同じような悩みや苦しみがあるから。19世紀の小説ですが、その問題意識は今も通用するのです。
150ページほどの文庫文です。