日曜の夜は、たいていラジオを聴いています。大河ドラマも好きなのですが、録画でみています。
昨日(2022年6月19日)は20時からJ-WAVEで「TUDOR TRAVELLING WITHOUT MOVING」という番組を聴きました。DJの野村訓市さんの語りや選んだ音楽が気に入って、この数年だいたい毎週聴いているのです。
野村訓市さん(1973年生まれ)は、学生時代からずっと世界中を旅してきた。DJのほか海外の映画製作に関わったり、文筆業、インテリアデザインの会社経営も行ったりと、いくつもの顔を持つ人。何人もの海外の著名なクリエイターとの交流についても、番組で語ったりする。
最初のうちは失礼ながら「どこかの経歴詐称のキャスターみたいだったらイヤだなあ」と思っていました。
でもどうやら本物でよかった。たとえば野村さんが関わったという、権威ある賞にノミネートされた海外の映画について確認すると、スタッフやキャストとして、たしかに名前が出ている。有名な雑誌に書いた記事が載っているのをみかけたりもします。
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昨日の番組では、コロナでずっと行けなかった、大好きなニューヨークに久々に行ってきた話をしていました。大まかに要約すると、つぎのような話。
・ニューヨークでは、コロナ前の平常な営み・気分が戻っていた。友人たちと会って話しても、それを痛感した。
・しかし物価は、コロナ前とはちがっていた。インフレと円安の両方の影響で、感覚的には「2倍」になったと思える。今回泊まったホテルは、以前に泊まったときの2倍の宿泊料金になっていた。
まあ、こういう物価高・円安の影響については、テレビのニュースやワイドショーでも見聞きすることです。
ただ、野村さんの語りは、そこから(そのような表現はしていませんが)「日本のこれから」を心配する方向に向かいます。それが、この人らしい視点で語られる。
・航空運賃も大きく値上がりしている。コロナ前には、便によってはエコノミークラスが空いているくらいだった(そんなに高くない値段でビジネスクラスに乗れたから)。しかし、もうそんなことはなくなったようだ。この運賃が定着すると、気軽に頻繁に海外へ行ける人は、以前よりも限られてくるだろう(とくに日本では)……
なるほど、海外へ頻繁に行く人の層が薄くなれば、それは日本の社会が「孤立」の傾向を深めるということではないでしょうか。社会の活気や創造性にマイナスの影響がありそうです。
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そして野村さんは(やはりそのような表現はしていませんが)「日本が買い叩かれる」ことについても言及しています。
・円安やインフレなどで、海外との価格差が大きくなれば、たとえば今海外で人気のある日本の「シティ・ポップ」の中古レコードなんか、海外のバイヤーにごっそり買われていくだろう。ギターなどのヴィンテージの楽器もそうだ(野村さんによれば、日本人はそれらの楽器の再評価に大きく貢献している)。
・そして、日本で安く仕入れたモノが、海外ではうんと高い値段で売られるのだろう。法外な値段をつけても、今の世界では買う人間が確実にいる。だからこういう中古市場は、愛好者がいろいろ語っていても、「(手が出せる)商品が存在しない」(富裕層にしか買えない)ということになっていく……
なるほど、こういう「買い叩かれる日本」というのは、これからいろんな分野で顕著になっていくように思います。
中古レコードが買い叩かれるなら、日本産のおいしい食べ物もそうなるのでしょう。そして、不動産や企業のようなもっと大きなモノも買い叩かれる。
そして最も重要なのは「人材」が買い叩かれることだと、私は思います。日本にとって貴重な、ほんとうに優秀な人たちが安すぎる報酬にうんざりして、海外に出ていくことです。
それも、本来の市場価値よりも安い報酬かもしれない(日本であまりに安かったから)。これは不動産などよりも、はるかに深刻。
日本人の感覚で「いい値段で売れた」と思えるならそれでいいのでは、という見方もあるとは思います。
でも、買った外国人は「安かった。自分たちのノウハウでこれで商売すれば、うんと儲かる」「本来のこれの価値はこんなもの(日本での売値)ではない」とみているかもしれない。その場合、日本人は「知識やノウハウの不足」という足下(弱み)をみられて買い叩かれているといえるのではないでしょうか。
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最後に野村さんは「もうすぐ選挙だけど、日本をこれからどうするか、制度などを大きく変える必要があると思うけど、そういう方向の議論が足りないのでは」という主旨のことを述べて、話をしめくくっていました。
私も、たしかにそうだと思います。しかし今朝のNHKのニュースをみると、今回の選挙の争点は「物価対策」「防衛力強化」「憲法改正」がメインだそうです。
これらはやはり大事なことです。でも「日本の繁栄の基盤を長期的にどうしていくか」は、それほど議論になっていないようです。「それで大丈夫なのか?」と私も心配になります。
この番組は、基本的には海外での体験や、音楽談議や、リスナーからの人生・恋愛相談などの「やわらかい」話がメインです。日曜の夜にリラックスしていい気分になるための番組なのだから、それは当然です。
でもたまには、ここで述べたような「カタい」政治的な話も、ちょっと出てきます。
それを嫌だと思う人もいるかもしれませんが、この人の語りならいいのではないか。それがこの番組をより充実したものにしていると、私は思います。
野村さんは大上段にではなく、自分がよく知る、本来は政治的ではない・番組にもふさわしい素材(中古レコードはそうです)から語っています。
また来週も、一杯やりながら聴かせてもらいます。
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