そういちコラム

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今日の日経新聞のあちこちにみられる「衰退する日本」

最近の日経新聞(朝刊)を読んでいると、「この日の新聞は、まるで『衰退する日本』をテーマに特集しているみたいだ」と思えることが、ときどきあります。

もちろん、そんな「特集」を組んでいるわけではありません。

でも、ざっと眺めただけで、「衰退する日本」に関わる大小さまざまな現象がそこにはたしかにみられるのです。今朝の日経新聞(2022年8月18日朝刊)も、まさにそうでした。

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今朝の日経新聞の一面のトップ記事は「武田〔薬品〕、ワクチン世界販売 国内企業初、まずデング熱」という記事でした。

「五輪組織委元理事を逮捕」は、1面ではあるがその次。日経は「その事件が株価に影響するかどうか」をまず重視するところがあります。だから「経済新聞」といえるのです。

武田薬品のニュースは、それ自体は日本企業の新展開ということで「良いこと」なのかもしれません。

でも、それはつまり「これまで日本製ワクチンは世界で販売されていなかった」ということです。

この記事によると“日本はワクチンの開発で大きく出遅れている。1980年代まで日本のワクチンは技術が高く、米国などに技術供与していた。だが、予防接種の副作用訴訟で92年、東京高裁が国に賠償を命じる判決を出し、副作用を恐れてワクチンの開発はほぼ途絶えた”のだそうです。

それで、コロナワクチンも輸入に頼らざるを得ないというわけです。

ワクチンのことは、「日本の衰退」の一側面といえるのでしょう。

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この日の日経の3面には、「貿易赤字、常態化 7月 12か月連続、資源高続く 輸出量、円安でも5か月連続減」という記事も。

“7月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引く貿易収支は1兆4367億円の赤字だった”とのこと。貿易収支の赤字は12か月連続。

そのおもな原因は“資源の高騰による輸入価格の上昇だが、半導体不足などの影響で円安でも輸出が鈍いこともある”とのこと。

しかし、こんなに貿易赤字が連続したことはこれまでになかった。そこで記事でも“世界経済が減速すれば輸出の逆風により、貿易赤字が定着しかねない”と懸念しています。そして“貿易赤字が続く背景に、円安にもかかわらず輸出量の伸びが小さいことがある”とも述べている。

説明は省きますが、「円安は日本企業が輸出を伸ばすうえでは有利」とされてきましたが、その「常識」が今回は通用しない。

つまりこれは、「日本企業が海外で稼ぐ力が明らかに落ちてきているのではないか」ということです。

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「海外で稼ぐ力の低下」に広い意味で関わる記事が、1面の下の方にありました。「教育岩盤 漂流する入試」というタイトルの、教育問題を論じたシリーズの4回目。見出しに「加熱する「医学部信仰」」とあります。

この記事は「優秀な理科系の生徒が医学部に集中する傾向」について述べています。

たとえば有名進学校の灘高は医学部志向が強く、“2022年度は〔灘高〕卒業生221人中40人(ほかに浪人生24人)が国公立大医学部に受かった”とのこと。

これに対しては学校側も“「多くの生徒が医学部を目指す。なぜだろう。社会の発展やテクノロジーの進歩には、工学も理学も重要なのに……」”などと述べている。

また、灘高の校長は“「高校生には、安定していて世間から尊敬され、報酬が高い医師以外に見えない」”とも語っています。

これは「昭和的な価値観が今も力を持っている」ということでしょう。昭和時代の医師は今以上に尊敬され、まさにエリート職業の代表でした。それは今も続いている。

あるいは「社会の発展やテクノロジーの進歩」に貢献する人材を、近年の日本が冷遇してきたことが、そこにあらわれているのかもしれません。

たしかに医師は重要で尊敬に値する仕事です。個々の若者がどんな仕事を志望するかも、もちろん自由。医師をめざす若い人は、ぜひ立派な医師になってほしい。

しかし、社会の次元でみれば「優秀な理系の生徒が第一に志望するのが医学部」という状態がいつまでも続けば、「海外・世界で稼ぐ」ための産業やテクノロジーは停滞するでしょう。

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こういう状況ですから、月並みな言い方ですが、国や社会のシステムをいろいろ変革する必要があるわけです。

でも、そのような国家の変革で大きな役割を担う官僚機構も、相当に疲弊しているようです。4面には「崩れゆく国家公務員」というシリーズの記事がありました。

この日(第3回)の記事は「女性の国家公務員の採用は、近年は4割まで拡大したが、女性管理職は全体の5%未満で、女性の能力の活用はすすんでいない」という内容。

このシリーズは「国家公務員の処遇の改善がすすんでいない。そのことは国家に損失をもたらしているのではないか」という問題意識に基づいています。「女性の活用の遅れ」も、国家公務員の組織の問題のひとつ。

「こんな処遇や組織運営では、国家公務員はいい仕事ができないし、優秀な人材も確保できない」というわけです。

国家公務員だけが、国のあり方を決めるわけではありません。しかし、たとえば「ワクチン開発で副作用が出て国の責任になっては困る」と考え、その開発を抑制することが国家公務員(とくにエリート官僚)には可能なのです。

そして、この国家公務員の記事のすぐ下には、「自民党幹部の国会議員が、参院選にあたり旧統一教会の関連施設を新人候補と訪問した」という件についての記事がありました。国家公務員が疲弊する一方で、政治の中枢にいる人たちはこれか……

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ある日の新聞をざっとみただけでも、この調子です。

「ではどうしたらいいか」をきちんと論じる力は、もちろん私にはありません。

とにかく、さまざまな現象は相互につながっている。そして全体としてある大きな「良くない」流れを生んでいる――そのことを今日の新聞からあらためて思ったのでした。

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