そういちコラム

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今日の名言 ナポレオン 6万の兵に私が加われば…… ナポレオンの功績は何?

【今月の名言】ナポレオン・ボナパルト(近代フランスの基礎を築いた軍人・政治家、1769~1821)

6万の兵に私が加われば、16万の兵力に相当する。

1814年に、敵であるヨーロッパ諸国の連合軍25万に対し6万の兵力を率いて戦い、勝利したときのナポレオンの言葉。6万で25万に勝ったのだから、すごい。

すぐれたリーダーは、チームの力を2倍増し・3倍増しにする。ダメなリーダーは、6万の兵を1万相当の兵力にしてしまうかも。

(ティエリー・レンツ著、福井憲彦監修『ナポレオンの生涯』創元社、遠藤ゆかり訳より)

ただし、このときナポレオンは戦場では勝利したものの、その後まもなく、戦いのために留守にしていた首都パリを敵軍に占領されてしまいます。

これは、ナポレオン軍の作戦計画を記した機密書類がアクシデントで敵の手に渡って、「ナポレオンの軍勢はパリには当分戻ってこない」のが知られたことが大きく影響しています。

そして、パリでは反ナポレオン勢力による政権がつくられ、結局彼は皇帝を退位することになりました。

この頃のナポレオンは、1812年のロシア遠征の失敗によって権勢は下り坂で、国内でもかなり追い詰められていました。ナポレオンの周囲の元帥たちも、長期にわたる各国との戦争に疲れ果てていて、ナポレオンに権力の座から降りることを勧めたのです。

とはいえ、ナポレオンが非常にすぐれた戦争の司令官であったことはまちがいありません。「自分が指揮することで、兵の力を通常の何倍にもしてきた」というのは、まさに事実なわけです。

そして、その能力がナポレオンという人物の核心ともいえる。その意味でこの「名言」は、ナポレオンをとくによくあらわしていると思います。

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なお、ナポレオンの誕生日は8月15日です。私たち日本人にとっての「終戦の日」と同じなので、あまり話題になりませんが。

では、そもそもナポレオンとはどんな人なのか? 何が功績なのか?

ナポレオンにはいろんな功績がありますが、その最大のものは「共和国の威力を示したこと」だと、私は思います。その意味で、ナポレオンは世界史の大きな流れをつくった1人だといえるでしょう。

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1789年に始まった「フランス革命」によって、フランスでは国王や貴族の支配が倒され、国民全体の自由や平等をかかげる「共和国」の政府が生まれました。

しかし、当時のヨーロッパ諸国のほとんどは王国です。「革命が自国に波及したら、たいへんだ」と、周辺の国ぐにはフランスに軍事的圧力を加え、新政府を倒そうとしました。

このとき、フランス軍を率いて戦い、外圧をはねのけたリーダーが、ナポレオンです。

やがて、勢いを得たナポレオンは、周辺諸国(イタリア、ドイツ西部、スペインなど)をつぎつぎと制圧してしまいました。

ナポレオンは、まさに天才的な「英雄」だった? たしかにそうでしょう。先ほど述べたように、彼の軍事的能力はすばらしいものでした。

でも当時のフランス軍が強かったのは、彼の力だけではありません。自由や平等の旗のもとに国民全体が団結できる共和国の軍隊のほうが、「国王の軍隊」よりもはるかにやる気があったということです。

共和国という新しい体制の可能性をみごとに引き出し(多くの犠牲を生みながらも)、その威力を劇的に証明したことが、「英雄」の最大の功績なのです。

 

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