そういちコラム

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そもそも「元首」とは? 元首にもいくつかのパターンがある

エリザベス女王の葬儀(2022年9月19日)の海外からの参列者は、女王が「元首」であることから、それに対応する各国の元首になるとのことです。

では、そもそも元首とは何か?

元首とは、国家のトップのうち「国を代表または象徴する存在」のこと。

そして「国家のトップ」といえる存在には、「政府の行政権のトップ」もあります。

日本の場合、「日本国民統合の象徴」としての天皇が、ここでいう「元首」にあたります。一方、首相(内閣総理大臣)は「行政(国の執行権)のトップ」です。このような行政のトップのことを「首脳」と呼ぶことも多い。

なお、日本国憲法下では天皇の政治的・実務的な権限をとくにつよく否定しているので、そのぶん首相にも一定程度「元首(国の代表者)」としての側面があるといえるでしょう。

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そして、世界には「大統領」が元首である国もあります。そういう国のほうが今の世界には多いです。

大統領とは「共和国の元首」の最も一般的なあり方です。共和国とは「国王などの世襲のトップがいない国」のこと。

ただし、ここでいう「共和国」とは、「国王がいない」だけでなく、「複数の政党が活動し、民主主義や議会制度が(一応でも)機能している国」を念頭においています。

中国のような社会主義系の「一党独裁」の国は、ここでの説明には含まれません。中国では、国家元首も「主席」などの、独特の名称のポストです。これはまた、ちがうカテゴリーに入るといえるでしょう。

そして、当然かもしれませんが確認しておくと、「国王と大統領の両方がいる国というのはない」わけです。「国の代表」が複数存在してはおかしいからです。

しかし、国王のいる国にも大統領のいる国にも、多くの場合、首相がいます。アメリカのように「大統領だけで首相がいない国」は少数派です(でもアメリカだけではなく、一定数ある)。

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以上、要するにエリザベス女王の葬儀の外国からの参列者は、原則として「国王」か「大統領」、および王妃や大統領夫人ということになります。

報道されている参列者・参列予定者のリストをみると、まずヨーロッパの国王などの名前などがあがっています。

つまりオランダ、ベルギー、スペイン、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの国王、モナコ大公。ヨーロッパ以外ではトンガ国王の名前もあります。

これらの国には「首脳」としての首相がいますが、首相ではなく国王が参列するわけです。岸田首相ではなく天皇陛下が参列する日本も、このカテゴリーに入る。

そして、共和国の元首である大統領が参列するカテゴリー。まずアメリカ大統領。そしてフランス、ドイツ、イタリアといった西欧の主要国の大統領。ほかのヨーロッパの国ぐにからは、ポーランド、オーストリア、リトアニアの大統領

ヨーロッパ以外の国では、トルコ、韓国、ブラジル、インド、スリランカ、イスラエルの大統領

なお、ウクライナの戦争の関係で、ロシア、ウクライナ、ベラルーシの大統領は招待されていないのだそうです。

あとは、英連邦諸国のなかでイギリス国王を「象徴」的な元首とする国の首相(首脳)たちです。カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、ジャマイカなどの首相。首相が参列するのは、基本的にはこうした英連邦の国ぐにということになる。また、イギリス首相も参列するとのこと。

以上は、私が報道で知った範囲ですので、全体をカバーするリストではないですが、参列するおもな国ぐにをかなり網羅しているはずです。

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そして、ここで名前を挙げた国の大統領は、①政治的実権を持つ「首脳」でもある大統領と、②「象徴」的な元首としての意味合いが強い大統領に大きく分かれます。

「実権のある大統領」「首脳としての大統領」の代表は、アメリカ大統領です。アメリカ合衆国には首相はいないので、行政の長としての権限は大統領に集中している。

そしておもな大国では、フランス、トルコ、韓国、ブラジルの大統領は、この「①実権のある大統領」です。このうち、トルコとブラジルには、アメリカ合衆国と同様に首相のポストがありません。

一方、フランスと韓国には大統領のほかに首相がいます(ロシアもそうです)。これらの国の首相は、大統領をサポートする副官のような存在で、大統領が選ぶのです。

そして、もうひとつの「②象徴的な元首」としての性格が強い大統領といえるのは、ここであげた国のうち、おもな大国ではドイツ、イタリア、インドの大統領がそうです。

これらの国は、議会が選出する首相が行政府の長として政治的実権をおもに有している。

だから、海外の私たちは「象徴的な元首」としての大統領のことをあまり知りません。「インドの(あるいはイタリアやドイツの)大統領って、あまり聞かない」というのがふつうです。

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現代のおもな国家の政治体制を、大統領と首相、あるいは国王と首相の関係によって分類すると、こうなります。以下の1と2が今述べた「実権のある大統領」です。

1.純粋な大統領制
首相は存在せず、公選される大統領に執行権力(行政権)が集中。 

例:アメリカ、トルコ、ブラジル

2.大統領とその副官としての首相
公選される大統領が強い権限を持ち、首相は大統領が選ぶ。首相も大統領に次ぐ存在として重要な役割を担う。 

例:フランス、韓国、ロシアも一応これ
*首相の任命に議会の承認が不要な場合と、必要な場合がある

3.大統領と首相がいて、首相に実権がある
首相は議会の多数派によって選ばれ、大統領が形式的に任命する。 

例:ドイツ、イタリア、インド
*大統領が公選される場合と議会で選ばれる場合がある

4.議院内閣制(大統領がいない、国王がいる)
 国王がいるが実権なし。議会で選ばれた首相に執行権が集中。

例:日本、英国、オランダ、スペイン、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー

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つまり、世界の国ぐには、やはりそれぞれにいろんな体制をとっているのです。

「元首」という視点でみても、それには大きく3つの類型があります。「①国王」「②実権のある大統領」「③象徴的な大統領」の3つです。

そして「実権のある大統領」には「大統領しかいない」パターンと「首相がいる」パターンの2つがある。

また、今の世界では「国王」のほとんどは政治的実権を持っておらず、首相が政治的実権を持っているというのが一般的です。

しかし、(今回の葬儀に参列するかどうか、私は知らないのですが)世界にはサウジアラビアのように、国王が政治的実権を持つ国もある。だから、一般的な分類としては「実権のない国王」「実権のある国王」というのも成り立つでしょう。

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今回のエリザベス女王の葬儀には、以上のようなさまざまな類型の「元首」がやってくるわけです。

まさに「世界の元首大集合」ということになる。こういうことは、めったにないはずです。

 

*世界各国の元首の称号・誰が元首か、首相はどうか……等がわかる外務省のサイト。面白いです。

各国の元首名等一覧表|外務省

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