そういちコラム

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「理想の村」のむずかしさ

5月14日は、共産主義の運動家ロバート・オウエン(1771~1858、イギリス)の生まれた日。

オウエンは、裸一貫から身をおこし、紡績工場の経営者として事業を成功させました。そしてそれだけでなく、労働者の待遇改善や教育・啓蒙にも熱心に取り組みました。

しかし彼にはさらなる理想がありました。やがて彼は私財を投じ、「私有財産を否定した、全てが共有の理想の村」をアメリカに建設しました(1825年)。つまり「共産主義」の理想による村です。

しかし、この村は労働が非効率で、経済的に行き詰まり失敗。再びイギリスでも「理想の村」をつくりましたが、また失敗。

全財産を「理想の村」につぎこんだ彼は、貧しいまま亡くなりました。それでも最後まで自分の主義主張を捨てずに、言論活動を続けたのでした。

オウエンは、理想主義だけではない、経営の経験や才能のあるすぐれたリーダーでした。その彼でも「すべてを共有財産で運営する理想の村」は経営しきれないのです。

彼の生涯は「その理想がいかに無理なものであるか」を示す実験だったといえるでしょう。(土方直史『ロバート・オウエン』研究社、『オウエン自叙伝』岩波文庫による)

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また、オウエンのあとの世代であるマルクスやエンゲルス(1800年代後半)は、オウエンの試みを、自分たちのような系統だった学問的理論に基づかないという意味で「空想的」だと評価しました。

一方、自分たちは「科学的な共産主義・社会主義」であるというのです(ここでは「私有財産否定」の思想という意味で社会主義≒共産主義と考えていいです)。

そして1900年代前半には、「科学的社会主義」を掲げる国家・ソヴィエト連邦が成立しました。この国は一時期かなり勢いがありましたが、やはり経済的に行き詰って失敗に終わりました(1991年に体制崩壊)。

「私有財産を否定する共同体」というのは、大小のスケールにかかわらず、「空想的」でも「科学的」でも、とにかくうまくいかないのです。

でも、「私有財産のない世界」という理想(夢想)にひきつけられる人は、いつの時代にもいる。

オウエン以後も、「理想の村」の実験は数々行われました。そして、理想を実現できずに終わっています。

ソ連が崩壊して、もう30年以上経ちます。そろそろ社会主義国家の失敗の記憶が薄れてきたはず。

そこで、私有財産の否定に基づく国家やコミュニティの理想を、現代的なかたちで実現しようとする運動が、どこかでふたたび大きな力を持つかもしれません。

「そんなのはやめておけ」と私は思います。

でも近年は格差が激しくなるなど、資本主義がさらに「強欲」な感じになっている。

だから「資本主義っていやだなあ」という人が増えて、装いを新たにした「共産主義」が力を持つことはありうるのではないか。そんな視点も持っていていいと思います。

 ロバート・オウエン

 

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