そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

「専門の事典を手元に置いて、ちょっと調べる」習慣のすすめ

私はいくつかの小型の専門事典(辞典)を手元において、ときどき参照しています。

「インターネットでたいていのことは調べられる」というのは、たしかにそうでしょう。私もインターネットで調べたり、確認したりということはしょっちゅう行っています。

でもその一方で「これは自分のテーマ・関心領域」と思うことについては、紙の本である専門事典・小事典を手元において、必要に応じて参照するようにしています。

紙の事典の良さは、おもに2つあります。

ひとつは、情報の信頼性です。

紙の専門事典は、その分野で認められた専門家がとくに慎重に書いて、さらにほかの専門家や編集者のチェックを受けた内容でできているのです。「誰が書いたか不明で、特段のチェックを受けていない」という多くのインターネットの記述とは、わけがちがいます。

もうひとつは、説明が簡潔であること。

記述のスペースが非常に限られるので、基本的な要点だけが書かれている。ウィキペディアでは、細かい記述が延々と続くことがありますが、紙の事典はそれがない。だから、説明が頭に入りやすいのです。

もちろん、そんな「簡潔な説明」では物足りないことも多々あります。

でも、事典というのは「ちょっと調べる・確認する」ことが最も大事な用途だと思います。

そしてその「ちょっと」の情報は、「ちょっと」であるだけに正確なことがやはり重要です。

信頼性に不安がある、消化しきれない知識を100抱えこむよりも、精選された正確な知識を5つくらいしっかり身につけたほうが、きっと役にたちます。さらに詳しいことが必要だったら、そのテーマに関連する本を読めばいいのです。

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今の私は世界史をメインテーマにしています(世界史の概説・入門書の商業出版をしたことがあります)。

そこで『角川世界史辞典』などを手元において、ときどき参照しています。

世界史上の人名については、水村光男編著『世界史のための人名辞典』(山川出版社)『東洋の歴史13 人名辞典』(新人物往来社)を愛用しています。

世界の科学史上のとくに有名な科学者については、板倉聖宣『科学者伝記小事典』(仮説社)を参照します。日本史については『角川日本史辞典』を手元においています。

そして、特定の地域・文化についての事典である『アメリカを知る事典』(平凡社)、『岩波イスラーム辞典』なども使っています。

また、若い頃(1980~90年代)は哲学や科学の古典を読むことへの関心が強かったので、わかりやすく哲学用語を解説した、思想の科学研究会編『哲学・論理学用語辞典(増補改訂版)(三一書房)、あるいは講談社現代新書の1冊で出ていた、伊藤俊太郎編『現代科学思想事典』をよく参照していました。

ただ、この2冊は1970年代の出版なので、内容的には相当にアップデートが必要だとは思います。でも、古典的な項目・説明をわかりやすく知るうえでは今でも役立つはずです。

また、私は法学部出身で、若い頃の会社勤めでは法務系の仕事もしていたので、『法律学小事典』(有斐閣)もよく手にしていました。

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ここであげた、私が愛用する(愛用したことのある)事典におおむね共通するのは、「初心者向けに、わかりすく簡潔に書かれている」ということ。

あたりまえのことですが、事典を読んで「その説明がむずかしかったり煩雑だったりして頭に入らない」というのでは事典の意味がありません。

「自分にとって分かりやすく、使いこなせる」ということが、「手元においてちょっと調べる」事典では何よりも大事です。

アマゾンでの事典についてのレビューのなかに「この事典は初心者・学生レベルだ」として低い評価をしているケースがありますが、そういうものこそが「自分にぴったり」ということは多々あるはずです。

また、内容だけでなく、手に取りやすいサイズ・形状も重要でしょう。

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私にとって「専門の事典を手元に置いて、ちょっと調べる」ことを習慣にしてきたことは、いろんな本や論説を理解し、自分でものを考えるうえで大きな助けになったと思っています。

自分の関心領域について、専門家をはじめ相当なレベルにある方にとっては「専門事典を手元に置く」というのは、あたり前のことだと思います。

でも、「事典を使うのはあたり前ではない」という方にも、これまで何度か会ったことがあります。

関心領域があるのに、まだその分野の事典を持っていない方は、古本で十分なので、ぜひ買うことをおすすめします。

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なお、「これといった関心領域はない」という方にも、おすすめの事典があります。

それは『新世紀ビジュアル大辞典』(学研)という広辞苑サイズの事典で、「辞書+1冊版のミニ百科事典」といえるもの。

簡単な国語辞書的な情報のほかに、科学・自然・地理・歴史・人名などの幅広い分野の項目があり、1万を超えるカラーの図版がのっています。図鑑の要素もあるわけです。各項目の説明は、ごく短い。

まさに「ちょっとした調べもの」の事典。また、子どもによっては、この事典のいろんな項目を次から次へと読んで、ハマることがあるかもしれません。

この事典、昔はかなり売れたようですが、最後の版が出たのが2004年で、それ以降新版は出ていません。たしかにインターネットの時代には消える運命の本なのでしょう。

でも、1冊の限界まで詰まった分量(3000ページを超える)や細かいカラー印刷は、「紙の事典」としてある種の到達点のような感じもします。図書館にときどき置いてあるはずです。

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あと、インターネットで紙の事典(百科事典)の記事が読めるサイトとして「コトバンク」があります。

「コトバンク ○○○←調べたいワード」で検索すると、その項目についての記事が平凡社や小学館などの百科事典にあれば、それらの百科事典の記述が出てきます(図版はカットされています)。これも、私はよく使っています。

ただしコトバンク(にある百科事典の記述)には、かなり昔の記述が多い、新しい事象の項目はない、などの限界はあります。しかし、「古典的な事柄・説明をちょっと確認する」のにはたいへん便利です。

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