そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

「気に入った著者をとことん追いかけて読む」ことの重要性

読書の大事なコツのひとつに、「気に入った著者の本を、とことん追いかけて読む」ことがあります。

これをきちんと行うと、読書を通じて自分の知的な世界を大きく広げることができます。「初心者レベルを超えることができる」いってもいいです。

その第一歩は、ある本を読んで「興味深い・すぐれた内容だ」と感銘を受けたら、その著者の別の本も読んでみることです。

「気に入った著者を追いかける」のは、小説・マンガといったフィクション系では、ごくあたりまえのことでしょう。

しかしそれは、学問・思想、評論、時事などのフィクション以外の分野では、かならずしもあたりまえではないと思います。その理論や主張などが話題になった本(とくに新刊)を読み「興味深い」と思ったとしても、その著者のほかの本を読む人は、小説の場合よりもかぎられています。

そもそも、小説以外だと「本のタイトルは覚えていても著者の名前は忘れてしまった」ということがかなりあります。「著者を追いかける」ことへの関心が薄いからです。たくさんの本を読む人でも、そういうことがあります。

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そして、1冊読んで気に入った著者の本を2、3冊読んでみて「やはり興味深い」と思ったら、さらに本格的にその著者を追いかけるといいと思います。つまり「その著作を全部読む」つもりで読んでいく。

「全部読もう」と言われて「無理だ」と思うのであれば、あなたはその著者にたいして感動していないのです。それなら2、3冊も読めば十分です。また、わずかしか本が出ていない著者なら、深く追いかけることはできない。

でも、数多くの本を出しているベテランや大物の著者について「全部読んでみてもいいかも」と思えるなら、ぜひやってみましょう。

そういう「追いかけるに値する著者」との出会いがあったなら、それはチャンスだと思います。

その全集や著作集が出ていたら、まずそれを買いましょう。本屋さんでその著者の本が並んでいるのをみかけたら、片端から買いましょう。あるいはインターネットの書店で検索して買い集める。

新刊では手に入らない本も、街の古書店やインターネットの古本で探してみる。それでも手に入らない本は、図書館でさがす。そのうち古書店でみかけたら、買いましょう。

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「そこまで1人の著者を追いかける時間やお金があるなら、幅広くいろんな著者の本を読むほうが学びとして効率的ではないか」と思う方もいるかもしれません。

たしかにいろんな著者の本を読むのは大事なことです。

しかしその一方で、自分の軸や基本となる何かを築くには、「追いかけるに値する著者をとことん追いかける」ことがきわめて有効だと、私は思います。

その著者の本を片端から読んでいくと、著者の発想や背景にある知識――相当に幅広い・大きな世界を、かなり吸収することができるのです。

たとえば10冊読むにしても、同じ著者の10冊は相互に関連して、ひとつの世界・体系をつくっているところがある。そして、相互に関連するのは、内容に重複があるということですが、その重複・くり返しによって著者の発想・知識が深く身につく、ということがあるのです。

10人の異なる著者の本を10冊読む場合は、それらの本を関連づけて身につけるのは、読む側に相当な力が必要です。初心者にはなかなかできないはずです。

1人のすぐれた著者の「世界・体系」を、不完全であってもかなり自分のなかに取り入れることができたら、それは自分が何かを読み・考えるうえで大きな基礎になるはずです。

そのような「基礎」は、いろんな著者の本を1冊ずつ読むだけでは、なかなか身につかないと思います。

ただ、文字どおり「全部読む」のは、やはり大変かもしれません。でもとにかく、その著者の仕事はよく知られた代表的著作だけではない、ということです。その著者の仕事のいろいろな面に目を向けることが大切なのです。

そしてもちろん「1人の著者をとことん追いかける」一方で、幅広くいろんな著者の本を読むことも行っていけばいい。

その2つの行為は読書において「車の両輪」のようなものです。しかし、「たくさんいろんなものを読む」ことを読書論では志向しがちで、「1人の著者をとことん追いかける」ことは軽視されているのではないでしょうか。

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ここからは、「著者の追いかけ方」のさらなる上級編です。

単行本だけでなく、その著者が雑誌や学会誌などに書いたものも、さがしてみましょう。その著者の書いた文章には、全集や単行本におさまっていないものもある。これはおもに図書館でさがします。

さらに、その著者や関係者が私的なサークルを主催している場合、たいていはその機関誌などサークル内限定の出版物があります。これは、書店や図書館にはありません。サークルの会員になるか、その会合に出かけて行くなどして、手に入れます。

創造的な仕事をしている著者・研究者には、そういう私的な研究会の場を持つ人が少なくありません。限定された仲間うちだけで、研究成果の発表や意見交換を行いながら、研究を練り上げていくのです。

「サークル限定」の出版物を読むことは、その著者の仕事のくわしいプロセスがわかり、大変勉強になります。

つまり、このように1人の著者の本をそれこそ「全部」読むことによって、その著者の仕事を知る以上のことが身につきます。

本の買い方・さがし方から、研究サークルへの参加や運営の仕方など、自分の知的世界を築くのに必要なノウハウの基礎が身につくのです。

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以上、「1人の著者を追いかける」ことの効用を述べました。

でも「とことん追いかけたくなる著者」なんて、なかなか出会えるものではないです。

それでも、私も昔にそういう「出会い」があって、それが自分の世界や可能性、学ぶよろこびを広げてくれたと感じています。だから「1人の著者を追いかける」ことは、ぜひおすすめしたいです。

まずはむずかしく考えず、興味のままにいろいろ読んでいけばいい。そのうちにきっと「追いかけたくなる著者」に出会えるはずです。

そして、その出会いを逃さないことが大事です。逃がさないためには「1人の著者の本を何冊も読むのは効率が悪いのではないか」「考えが偏ったり狭くなったりするのではないか」などと思わないことです。

ただし、その著者をいわば「お手本」として自分の思考の「基礎」をつくっていくわけですから、これは重大なことではあります。

その著者がそれほどの内容を備えた人なのかどうか――この判断はむずかしいです。

でも、私たちはもう大人なのだから、自分で判断し選びとっていくしかない。それはしんどいことではありますが、自由でたのしいことでもあるはずです。

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