そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

現象に名前を付ける・ベテラン歌手のクセの強い歌い方は「シクラメン現象」

「シクラメン現象」というのは私の造語で、「ベテランの歌手・アーティストに時々みられる、技巧的でクセの強い歌い方」のことです。

この言葉は、布施明さんが「シクラメンのかほり」(1970年代のヒット曲)を歌うのを、ふた昔前にテレビでみていたときに思いついたもの。

当時すでに円熟期を迎えていた布施さんは、若い頃のヒット曲を、技巧をこらして歌っていました。

若い頃は「まーわーたーいーろーしーたー」とプレーンに歌っていたところを「まわたーーー、いろしたーーー」みたいな凝ったメリハリをつけていたのです。

たしかに上手で、布施さんはすばらしい歌手です。しかし私は「この歌は、若い頃のようなプレーンな感じが好きだ」と思いました。

そして、歌い方のこのような経年変化を「シクラメン現象」と名付けたらどうかと思ったのです。

それは、ベテラン歌手が技巧を追究し、深めていった結果といえるでしょう。「シクラメン現象」は、ほかのベテラン歌手・アーティストでも時々みられますが、私には、布施明の「シクラメンのかほり」が典型的・象徴的だと思えます。

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以上の思いつきを妻に話したところ、ウケました。そして「シクラメン現象」は2人の共通語となった。

やがて、「シクラメン現象」がみられる歌い手をテレビなどでみかけると、2人で「この人、シクラメンが入っているね」などと言うようにもなりました。

しかし「シクラメン現象」という言葉を、外で口にすることはほぼありませんでした。だから、この言葉は我が家だけで通用するものでした。

さきほどグーグルで「シクラメン現象」で検索してみましたが、該当する検索結果は見当たりませんでした。

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しかし、この言葉をつい他人に話してしまうこともあります。

先日友人と会って雑談していたとき、最近我が家でくり返し聴いている、あるベテランアーティスト(日本人)の新作アルバムについて話題にしました。そして私は「このアーティストはキャリア40年余りのベテランだけど、シクラメンが入っていない。端正で洗練された感じがいい」などと述べたのです。

自分のなかでは慣れっこの表現だったので、つい言ってしまいましたが、「説明が必要だ」と気がついて、上記で述べたことを友人に話しました。

すると共感して、ウケてくれました。「若い人にはわからないだろうけど、中高年はわかるね」とのこと。

その後、友人からのメールによれば、友人の家族にも「シクラメン現象」はウケたそうです。そして何人かの「シクラメンの入っているベテランの歌い手」の名前があがったとのこと。

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こういう、たわいない、気楽な話ができるのはいいですね。最近、このブログでは戦争やテロ事件などの深刻なテーマ多かったので、こういう話題もいいなあと、書いていて思います。

ところで、これ自体はたわいない話ですが、「シクラメン現象」のように、「これといった名前のついていない現象に注目して、それに名前をつける」のは、じつは知的かつ創造的なことだとも思っています。ここでは立ち入りませんが、学問の世界でも重要なことのようです。

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私には世界史の概説・入門書の著書(『一気にわかる世界史』日本実業出版社)があるのですが、この本では世界史における「となり・となりの法則」という概念が打ち出されています。「となり・となりの法則」も私の造語で、それはつぎのようなことをさしています。

世界史において、「繁栄の中心」といえるような、その時代を代表する強国・大国は、時代とともに移り変わっていった。そして新しい繁栄の中心は、それまでの中心の外側で、しかしそんなには遠くない周辺の場所、つまり世界全体でみれば「となり」といえるような近い場所に生まれる……

まあ、これだけでは何のことかよくわかりませんね。きちんと説明したら長くなるので、それはやめておきます。

とにかく、以上で述べたような世界史上の現象に対して「となり・となりの法則」という名前を思いついたときは、大きく視野がひらける感じがしました。そして、その着想をもとに書いた世界史の概説が、本として出版できたのです。

そういうわけで、「シクラメン現象」みたいな名付けは、かなり奥の深いものではないかと思っています。

 

私そういちによるの世界史の概説・入門書(2024年2月刊の文庫版)

上記文庫の親本

一気にわかる世界史