そういちコラム

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「大統領」と「首相」からみた、さまざまな政治体制

先日、韓国の新しい大統領が就任しましたが、そもそも「大統領」とは何でしょうか? 「首相」とどうちがうのでしょうか?

大統領は「共和国の元首」です。共和国とは「国王などの世襲の支配者がいない国」のこと。元首とは「国を代表するトップ」です。

一方、首相とは「元首ではない、行政府(政策を実行する執行権力)の長」のこと。典型的には議会の多数派によって選ばれますが、大統領が指名するなど、ほかのパターンもあります。

現代のおもな国家の政治体制を、大統領と首相の関係によって分類すると、こうなります。

1.純粋な大統領制
 首相は存在せず、公選される大統領に執行権力(行政権)が集中。 例:アメリカ

2.大統領とその副官としての首相
 公選される大統領が強い権限を持ち、首相は大統領が選ぶ。首相も大統領に次ぐ存在として重要な役割を担う。 
 例:フランス、韓国、ロシアも一応これ
 *首相の任命に議会の承認が不要な場合と、必要な場合がある

3.大統領と首相がいて、首相に実権がある
 首相は議会の多数派によって選ばれ、大統領が形式的に任命する。
 
 例:ドイツ、イタリア インド
 *大統領が公選される場合と議会で選ばれる場合がある

4.議院内閣制(大統領がいない)
   国王がいるが実権なし。議会で選ばれた首相に執行権が集中。
 例:日本、英国、オランダ、スペイン、スウェーデン、ノルウェー

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以上を短く呼ぶなら「1.大統領制」「2.準大統領制」「3.首相大統領制」「4.議院内閣制」といったところでしょうか。

これはとりあえずの名称で、必ずしも一般的なものではありません。「準大統領制」「首相大統領制」という用語は、松里公孝『ポスト社会主義の政治』(ちくま新書、2021年)で知りました。

以上は、あくまで選挙が(ある程度以上)まともに行われている国における分類です。

たとえば中国はこれに該当しません。中国は共産党という支配的集団による独裁国家で、共産党内の権力闘争のなかから国のリーダーが選ばれるのが実態です。

社会主義をかかげる政党が支配する国では、自分たちの体制の革新性や独自性を強調する意図で、国のトップに独特のポストや名称が採用されることが多いです。

中国で国のトップを「主席」と呼ぶのは、その一例です。旧ソ連で国のトップが「書記長」であったりしたのも、そうです。

以上の1.~4.でおもな国のほとんどを網羅しているはずです。

ただし、ほかにもたとえば「議会で大統領を選び、その大統領が実権を持つ」というパターン(議会大統領制)などがあるようです。ここでは立ち入りませんが、上記の松里さんの本にありました。これは議院内閣制に近い。

それにしても、世界には「大統領と首相」という視点だけでみても、いろんな体制があるのですね。

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しかしその多様性は、近年は変化もあるようです。

政治学者のあいだでは「現代の民主主義国家では、政治体制が大統領制的な方向に収れんしつつある」という見解もある(たとえばピエール・ロザンヴァロン『良き統治 大統領制化する民主主義』みすず書房)。

つまり、これまでのかなりの国では、議会(立法府)や政党の影響が大きかったり、大統領と首相の権力が拮抗していたり、権力の多元性があった。しかし、近年は大統領や首相という1人の(執行権力の)トップにすべてが集中する傾向がある。

いろんな政治体制がありながらも、大統領制的な「1人への権力集中」ということが多くの国で起こっているということです。

その「権力集中」を「民主主義にとって危険であり、問題だ」とする立場もあれば、「政治が機能するうえで必要なことだ」という立場もある。

これは、日本でもあることです。国会や与党の影響が強かったはずの日本でも「官邸一強支配」といったことが近年は言われる。そして、官邸への権力集中に対する評価も分かれている。

世界の政治の多様性を認識しながらも、こうした「共通の傾向」にも目を向けたいものです。

 

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