そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

新しく何かを始めるために大事なこと・じつは「過去の仕事の再検討」

新鮮な気持ちで新しく何かを始めたいという方に、ぜひおすすめしたいのが「過去の仕事の再検討」です。

まったく新しい何かに取り組むのもいいのですが、じつは「以前に取り組んで未完成や不発におわった仕事を再検討する」のは、自分を発展させるうえで大事な方法です。

多くの先人が「過去の仕事の再検討」から大きな成果を生んでいます。

やなせたかし(1919~2013)のアンパンマンがヒットしたのは、1980年代にテレビアニメが放映されてからです。しかし、その原型は1969年にすでに生まれていました。

ただし、その「アンパンマン」はふつうの人間がアンパンマン的扮装をしているもので、内容も大人向けでした。その後1970年代初頭に子ども向けの「顔が食べられるアンパンマン」が登場します。しかし、すらっとしたプロポーションで、現在とはかなり異なります。

つまり、アンパンマンというキャラは、作者が長い時間をかけ、何度もつくりなおすことで今のかたちとなり、大ヒットしたのです。70年代初頭までのバージョンで止まっていたら、アンパンマンはほとんど知られることなく終わったでしょう。(やなせたかし『アンパンマンの遺書』岩波現代文庫)

チャールズ・イームズ(1907~1978)という20世紀の偉大なデザイナーは、「過去の仕事にあらためて取り組む大切さ」を強調しました。

たとえば、1950年代につくられた「プラスチックチェア」という彼の代表作があります。このイスは背もたれと座面が一体化した曲線的フォルムが特徴ですが、そのコンセプトに基づく木製のイスを、彼はすでに1930年代に試作しています。しかし、それは技術的にもデザイン的にも発展途上で、当時は本格的な製品化には至りませんでした。

これをみごとに「完成」させたのが「プラスチックチェア」だったのです。そこにはプラスチックという新しい素材の発達も大きく影響しています。(イームズ・デミトリオス『イームズ入門』日本文教出版)

「過去の仕事の再検討」は「焼き直し」ともいいます。「焼き直し」というと一般には評判が悪いですが、じつは創造の大切な手段なのです。それは「発展途上のアイデアを完成させること」です。

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そういえば、私がどうにか出版にこぎつけた作品(『一気にわかる世界史』日本実業出版社)も、最初に書いた「原型」といえる原稿を、7~8年のあいだに何度か書き直して完成させたものです。

ブログに改訂版をのせたり、さらにそれを増補したりするなかで、出版社の目にとまったのでした。つまり「過去の仕事の再検討」が実をむすんだといえます。

あなたも「過去の仕事にあらためて取り組むこと」を考えてみてはどうでしょうか? とくに中高年の方は「未完や不発に終わったけど、今も気になっていること」が結構あるはずです。若い人にだってあるでしょう。

そして、今現在の自分のスキルで、世の中の新しい技術やサービスも使って取り組めば、以前はできなかったことができるかもしれません。

私は今日もこれから、自分の「発展途上のアイデア」を完成させる作業に取り組みます。これは幸せなことだと思います。

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