【今日の名言】チャールズ・イームズ(米国のデザイナー、1907~1978)
革新は最終手段。
(イームズ・デミトリオス『イームズ入門』日本教文社より)
チャールズ・イームズはイスや家具のデザイン、建築、実験的な映像作品、グラフィック、写真などで知られる、20世紀を代表するデザイナーの1人。妻のレイ・イームズ(1912~1988)と共同でそれらの仕事を行いました。
「革新は最終手段」は、この2人のモットーだったといいます。
この言葉の出典であるチャールズ&レイ・イームズ(イームズ夫妻)の評伝には、こうあります。
《「〔私たちの〕オフィスにモットーがあるとすれば、それは『革新は最終手段』です。革新という名目でなされることほど恐ろしいものはありません」とチャールズは言う。この点では、チャールズもレイも頑固だった。彼らの考えでは、もしデザイナーが新しさだけを追い求めれば、現実との絆を失うことにしかならない》(『イームズ入門』196ページ、助川晃自訳)
そして、この評伝の著者(チャールズ・イームズの孫でもある)イームズ・デミトリオスは「たとえば13・5輪の自動車をつくればたしかに革新的だが、それは自動車が4輪であることが常識になるまでの歴史の放棄である」ということを述べています。
要するに「13・5輪の自動車は革新的だけど意味がない」ということでしょう。
以上をまとめると、こんな感じでしょうか――デザインで大切なのは、必要を満たすこと。そのためにいわゆる革新が必要なケースはじつは多くない。まずは既存のものをよく検討しよう。「革新」そのものを目的にすると、本当に必要なことを見失う。
一言でいえば「余計な改善はしない」ということかもしれません。
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イームズ夫妻が「革新は最終手段」「余計な改善はしない」と心底考えていたことをよく示す、つぎのエピソードがあります(『イームズ入門』より)。
1950年代のこと。ビール大手・バドワイザーが新しいロゴのデザインをイームズ夫妻に依頼しました。
しかし半年後、彼らは「バドワイザーのロゴは、このままで十分素晴らしい」と言って、仕事を断ってしまったのです(この当時のロゴは基本は変わらないままつい数年前まで使われていました)。
多くのデザイナーがあこがれるような、大きなオファーです。懸命に取り組んで、自分の作品を後世に残そうとするのがふつうです。
しかし彼らのスタンスは、あくまで「よけいな改善はしない」ということだった。自分の存在を残すことよりも、「使う人にとって何がよいか」を優先したのです。そして、そこを見きわめる眼力がありました。
こういう人はまれです。だから、世の中では上に立つ人が変わると、やたら「刷新・改革」が唱えられます。そして、成果のあがらないことが多いのです。
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