そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

仕事の手を止めない人たち

東日本大震災(2011年)のあった3月11日には、亡くなった方たちを悼む人の姿がみられます。少し立ちどまって、日常の手を止めて、それは行われます。意義のある、大事なことです。

一方で大災害に直面したときでも「とにかく、ふだんの仕事の手を止めない」人もいます。

昔の人ですが、たとえば明治~昭和に活躍した評論家・徳富蘇峰(とくとみそほう)は、そうでした。彼は1923年(大正12)9月1日の関東大震災のとき、都内の自宅がめちゃくちゃになっても、庭に机を出して原稿を書きました。

彼が書いていたのは、代表作の『近世日本国民史』です。この本は全100巻にもなります。それを55歳だった1918年(大正7)に新聞連載で書き始め、89歳の1952年(昭和27)に完成させたのでした。

彼はこの本を完成させるため、旅行中も息子が死んだ日も、そして大震災の日も書き続けました。

また、NHKのドキュメンタリーでみた宮崎駿監督は、東日本大震災の直後に周囲が「スタジオを休みにすべきでは」と言うのに対し、つぎのように怒っていました。

「こんなときこそ仕事をすべきだ! こういうときも描きつづけたという伝説をつくろうじゃないか!」

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「大災害のときくらいは、仕事を休んでしかるべき」というのが、やはり常識的でしょう。私もそうです。それどころか自分に被害がなくても、どこかで大災害が起きると、なんだか落ち着かないです。今のウクライナの戦争にしてもそう。

でも世の中には、自分が動けるかぎりはけっして仕事の手を止めない人が、いろんな場所にいるのです。自身が被災しても、動き続ける人だっている。

新型コロナによる困難のなかでも、多くの人たちが仕事を続けようと頑張ってきました。医療や介護の人たちはとくに大変でしたが、社会のあらゆる分野でそうでした。

「仕事の手を止めない人たち」の活動は、大きな不幸をのりこえて社会が前進するための力になっていくのでしょう。

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