そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

プーチンは「ヒトラーとナポレオンの過ち」をくり返すか

ロシアによるウクライナ侵攻について、海外のある識者が「プーチンはヒトラーとナポレオンの過ちをくり返している」と述べているのを、ネットニュースでみかけました。

「過ち」とは、野蛮な侵略戦争そのものを言っているのではありません。かつて2人の強大な独裁者が、いずれも最盛期に不合理ともいえる、自分にとってリスクの大きな侵略戦争をして大敗したことをさしています(識者はその歴史を、いちいち説明していませんが)。

ヒトラーやナポレオンという、代表的な侵略者の歩みについて(2~3分で簡単にでも)確認しておくのは、意味があります。ここではおもにヒトラーについて。

***

ヒトラー(1889~1945)は、権力を固めた1930年代半ば以降、軍事増強をすすめ、かねてからの目標である「ドイツによるヨーロッパ制覇」に向けて侵略を開始しました。

まず、オーストリアやチェコスロバキアといった、ドイツの東側の、ドイツ人も多く住む地域をおもなターゲットとして併合・占領(1938~1939)。ここまで英仏はおおむね傍観しました。ドイツとの全面衝突は避けたかった。

しかしヒトラーは、1939年にはさらに東のポーランドに侵攻して制圧。ポーランドは、これまで併合した「“ドイツの一部”と言えなくもない地域」とは異質で、侵攻の規模も桁ちがいでした。ついに英仏もドイツへ宣戦布告し、第二次世界大戦が勃発しました。

そして1940年にはドイツはフランスへ侵攻し、短期間で制圧。ヒトラーは、イギリスや中立国を除く、ヨーロッパの主要部を制覇しました。

後知恵ですが、ここまでのヒトラーは「勝てる喧嘩」をしてきたといえます。ヨーロッパの中小国を征服するのはドイツにとってたやすいことで、フランスも、じつは意外と弱体でした。ここまでの侵略は計算されたものでした。

ここで、ヒトラーは「ヨーロッパ制覇」という目標をほぼ達成したといえます。それでも、ヒトラーは「守り」に入ることなく、さらに強大な敵であるイギリスやソ連(ロシア)を攻めました。

しかし、イギリスの抵抗は頑強で、ドイツは苦しみました。そして1941年には、ヒトラーはソ連との戦争(独ソ戦)を開始。ドイツとソ連との間には不可侵条約があったのですが、それを破って300数十万のドイツ軍がソ連に一気に攻め入ったのです。

ヒトラーは短期で勝利するつもりでした。しかし独ソ戦は泥沼化して、最後にはドイツ軍は敗退しました。独ソ戦の頃から、ヒトラーの命運は衰えていきます。

後知恵でみれば、ヒトラーはあそこでソ連との戦争などしないほうが身のためでした。

しかし、ヒトラーは何かにとりつかれていました。その政治思想のなかでソ連(ロシア)は絶対に倒すべき敵でした。

計算とは別のものが、ヒトラーには作用していた。そしてその非合理が、過去の成果を破壊していきました。

ナポレオン(1769~1821)も一時期ヨーロッパを制覇したのですが、イギリスと敵対するなかで、もう一つの大きな敵であるロシアに遠征して大敗しました。そこからナポレオンも下り坂になります。

***

今のプーチンは、ヒトラーの侵略のステップになぞらえれば、どこにいるのでしょう?

おそらくクリミア併合(2014年)やウクライナ侵攻は、プーチンにとってはヒトラーのオーストリアやチェコの併合のような位置づけなのでしょう。

しかし西欧やアメリカは、ポーランド侵攻のときのように敵対的な反応です。それでもロシアに宣戦布告することはない(したら大変なこと)。微妙なところです。

あるいは、プーチンが自分たちの力を過大評価していたとすれば、ウクライナでの戦いが泥沼化して、独ソ戦のような事態になるかもしれない。そうならないとしても、ロシアの社会・経済に大きなダメージはあるでしょう。

今回のプーチンは独ソ戦を始めたときのヒトラーのように、自分の「思い」にとりつかれています。たしかに「ヒトラーやナポレオンの過ち」に陥っている可能性はあるように思いますが、どうでしょうか。

 f:id:souichisan:20220302134327p:plain

 

私そういちの世界史ブログの記事。ブログ記事としては長文ですが、第二次世界大戦の経緯をまとめた文章としてはコンパクト。

 

第一次世界大戦の勃発について3分で解説