そういちコラム

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第二次世界大戦の犠牲者数・最も犠牲が多かった国は?

第ニ次世界大戦(1939~1945)による死者は、世界全体で軍人(戦闘員)2305万人、民間人3158万人、合計5400万人余りにのぼりました。これは、第一次世界大戦(軍人・民間合計で約1800万人)を大きく上回るものでした。

*ウッドラフ『概説現代世界の歴史』ミネルヴァ書房、2003年、原著1998年、213ページ(Robert Goralski編 World WarⅡ Almanac からの引用)

ただし、大戦争の被害・犠牲を正確にとらえるのは困難なことであり、死者数については諸説があります。

以上の「軍人・民間合計で5400万人(5000~6000万人)」は、重要で基本的な数字です。しかし「古典的な、手堅い推計による数字」といえます。

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近年の研究では、第二次世界大戦による死亡者を従来よりも大きくカウントする傾向があります。

「古典的な数字」はカウントの対象を「戦闘と、虐殺などの戦争犯罪による直接的な死者」に限定する傾向が強いです。なお、この死者にはホロコースト(ナチス・ドイツが推進したユダヤ人大量虐殺)の犠牲者約600万人も含まれます。

これに対し近年の研究では、戦争の影響で生じた疫病や飢饉などによる「間接的」な犠牲者を、積極的に「戦争による死者」に含めるのです。

そのような「近年の新しい数字」に属する、ある推計よれば、第ニ次世界大戦による死者は、7500万人余り(7000~8000万人)です。そのうち軍人は2605万人、民間人は4940万人でした。

*ジャン・ロベズ監修、ヴァンサン・ベルナール+ニコラ・オーハン著『地図とグラフで見る第2次世界大戦』太田佐絵子訳、原書房、2020年、原著2018年、146~147ページによる

以下、各国の死者数や死亡率は、おもに上記の『地図とグラフで見る第2次世界大戦』に基づいて述べます。

なお、1940年の世界人口(推定)は23憶人でした。7500万人は23憶人の3.3%。「3.3%」というと、2022年の世界人口80憶人に対してだと、2.6億人です。

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(ソ連・中国)

第ニ次世界大戦において、最も多くの死者が出た国は、ソ連でした。ソ連ではこの大戦で、軍人1230万人、民間人1560万人が亡くなりました。両者を合わせると2800万人弱で、第二次世界大戦の死者の4割近くを占めます。

ソ連では「独ソ戦」といわれる、第二次世界大戦のなかで最大規模の戦いが行われました。

独ソ戦は、1941年6月にドイツとその同盟国が300数十万人の大軍でソ連に侵攻して始まった戦いです。当時ソ連の一部だったベラルーシとウクライナ、そしてロシア東部をおもな戦場として、1945年5月のドイツの降伏まで続きました。

独ソ戦では、開戦時にはドイツとソ連合わせて800万、最大時には1500万人の兵力がぶつかり合っています。まさに想像を絶する規模の戦いでした。

そして、ソ連に次ぐぼう大な死者を出したのは中国で、軍人300万人、民間1200万人。

この数字の精度は、ほかの主要国とくらべて落ちると考えられます。しかし、中国は巨大な人口を抱えアジアの主戦場であった(1937~1945年に日中戦争が行われた)ので、多くの犠牲者が出たことはまちがいありません。

(ドイツ・ポーランド)

3番目に多くの死者を出したドイツ(オーストリア含む)は、軍人536万人、民間330万人。軍人の戦死者の7割ほど(400万人弱)は独ソ戦での死者です。

そして、ドイツに次ぐ(4番目に多い)死亡者が出たのがポーランドです。軍人24万人、民間630万人。

ポーランドでは、民間人の死亡の割合が高く、さらに民間の死亡者の約半数の320万人がユダヤ人でした。1939年の国の人口に対する戦没者の割合(以下「死亡率」)は19%。太平洋戦争の激戦地となった南洋諸島を除けば、最も高い率です。なお、ソ連の「死亡率」は15%で、ポーランドに次ぐ高さでした。

ポーランドは、ナチス・ドイツによる、明白で大規模な軍事侵攻の最初のターゲットでした。1939年9月のドイツによるポーランド侵攻を「第二次世界大戦の開始」とすることが一般的です。

そして、ポーランドはソ連と並んで、ナチス・ドイツがとくに残虐な殺りく行った地域でした。

ポーランドやソ連で主流の民族であるスラブ人(スラブ系諸族)を、ナチズム(ナチスの政治思想)では「劣等人種」と考え、その存在を世界から抹殺することを志向していました。

これは信じられないような話で、さらに説明が必要かもしれませんが、ここでは立ち入りません。なおユダヤ人は、ナチズムではスラブ人よりもさらに下層の「最下等の劣等人種」とされていました。

ドイツは第二次世界大戦においてデンマーク・ノルウェー・オランダ・ベルギー・フランスなどの西欧諸国(北欧含む)にも侵攻し、それらの国ぐにを占領しています。しかし、ポーランドやソ連に対する攻撃は、西欧諸国に対してよりもさらに過酷・残虐なものでした。

そして、その侵略をしかけたドイツ側の死亡率も、ソ連に次ぐ11.0%に達したのです。

なお、日本における人口に対する戦没者の割合(死亡率)は4%余りです(日本の戦死者については後述)。

また、ポーランドは第二次大戦前の時期において、とくにユダヤ人が多く住む地域でした(1940年頃のユダヤ人人口は330万人)。さらにナチス・ドイツは、ユダヤ人の大量虐殺を組織的に行う施設(アウシュビッツ収容所などの「絶滅収容所」)をポーランドに集中させています。

そのような事情・背景から、ポーランドではとくに大量のユダヤ人の死者が出ることになったのでした。

(ユーゴスラヴィア・ギリシャ)

また、ユーゴスラヴィアでは軍人・民間合わせて103万人という、ヨーロッパではポーランドに次ぐ4番目に多い死者が出ています。「死亡率」は6.6%で、ヨーロッパでは5番目の高さです(ヨーロッパで死亡率が高かった国・ポーランド→ソ連→ドイツ→ギリシャ→ユーゴ)。

そして、同じくバルカン半島のギリシャは比較的小規模な国でありながら、軍人・民間合わせて51万人の死者(そのうち9割が民間人)を出し、死亡率は7.0%に達しました。

ユーゴスラヴィアとギリシアも、第二次世界大戦においてナチス・ドイツ(およびその同盟国のイタリア)の侵略を受けています。

バルカン半島はソ連・ポーランドの周辺地域であり、ユーゴスラヴィアもまたスラブ人(南スラブ人という系統)が主流の国家です。ロシアとその周辺のスラブ人が多い地域は、第二次世界大戦においてとくに激しい戦いや殺りくがあったのです。

(フランス・イタリア・イギリスなど西欧)

一方、フランスの死亡者(軍人・民間計、以下同じ)は52万人、イタリアは51万人、イギリス(本国)は36万です。死亡率は、このなかで最も高いフランスでも1.3%となっています。

それらはもちろん甚大な犠牲なのですが、それでも「西欧での戦い・殺りくは、ロシアとその周辺ほど激烈ではなかった」ということです。

西欧(北欧含む)で死亡率が高かったのはフィンランドで、2.6%(死亡者36万人)。オランダもそれに匹敵する水準で、2.4%(死亡者21万人)でした。

これらの国は「西欧の激戦地」だったのです。ただし、フィンランドの死亡者の98%が軍人であるのに対し、オランダは97%が民間人です。

なおフィンランドは、第二次世界大戦の初期にソ連から侵攻を受けて領土を奪われ、その後独ソ戦の開始にあたってドイツ側に加わり、ソ連に侵攻しています。

そして、ソ連に奪われた旧フィンランド領などを占領したのですが、大戦末期にドイツの劣勢が明らかになると、ソ連と講和を結んでドイツの陣営から離脱。すると今度はドイツの攻撃を受けることになり、その戦いを大戦の終末まで続けたのでした。

(日本・アメリカ)

日本は、ポーランドに次ぐ(世界で第5位の)犠牲者数でした。厚労省の統計では、軍人・軍属230万人、民間80万人、合計310万人が亡くなっています(高橋昌紀『データで見る太平洋戦争』毎日新聞出版、2017年、24ページ)。

日本の1939年の人口(植民地を含まない本土のみ)は7100万人です。「310万人」は、上記人口の4%余りになります。

そして、アメリカはどうでしょうか。軍人の死者数は42万人で、民間人については本土が被害を受けていないので千数百人にとどまります。軍人・民間を合わせた死亡率は0.3%で、おもな参戦国のなかでは際立って低いです。

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以上は、最近私たちが大災害やテロ、あるいは地域的な国際紛争・内戦などで目にする犠牲者の数を大きく超える、ケタはずれの数字です。

第ニ次世界大戦の被害や悲惨さは、とにかく想像を絶するものでした。しかし、これは1900年代半ばの世界で現実に起きたことなのです。

それでも最近は「日本とアメリカって、戦争したことがあるの?」という若い人もいると聞きます。戦争を体験した世代や、その世代の身近で話を聞いた人たちもいなくなろうとしています。教科書に戦争のことが書かれていても、読まない生徒は大勢います。最近はテレビをみない人も増えている。

いずれ、無視できない数の人たちが「第二次世界大戦があったこと自体を知らない」という世の中になるのではないでしょうか。

その先には、おぞましいことが起きるかもしれません。「世界大戦などなかった」と主張する者たちが、影響力を持つようになるのです。

彼らは言うでしょう――「何千万人もの死者が出るような大戦争なんてあり得ない。あれは〇〇(←差別・攻撃の対象)がでっちあげたフェイクだ!」。

私はふざけているのではなく、本当に心配しています。世界大戦についての人びとの記憶や知識が劣化するほど、この世界における大戦争のリスクは高まるのです。

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