そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

戦争は何故なくならないのか

誰もが「平和は大切」というけど、戦争はなくなっていません。それは、さまざまな「正義」と戦争が結びついているからです。

たとえば「貧困や格差をなくす」といった、「平和」と同じくらい強力な正義があります。

革命は一般に内戦を伴います。革命とは、既存の「格差社会」をひっくり返すこと。格差のピラミッドの頂点にいる者たちをひきずりおろし、格差を是正しようとするのです。また、国際的なテロにかかわる勢力は、先進国と自分たちの間の格差に怒っています。

日中戦争(1937~45)や太平洋戦争(1941~45)の前夜、昭和戦前期の日本は、はげしい格差社会でした。人口の上位1%にあたる高所得の富裕層が、全国民の所得の2割を占めていました(この「上位1%シェア」は今の日本だと1割ほど)。

一方で、貧困に苦しむ大勢の人たちがいた。借金のカタに売られる農家の少女。農家の二男三男には受継ぐ田畑もなく、都会に出ても職はなかなかみつからない。戦前の経済は未発達で、工場やオフィスで働く仕事は限られていたのです。

戦前を知る昔のエコノミスト(下村治)が、1960年代にこんなことを述べています。

「当時の社会問題の根底には、人びとに十分な富や職を行き渡らせることができない〈人口過剰〉の問題があった。当時の状況では、これを内部的な成長や福祉政策で解決するのは無理だと思われた」

「そこで資本主義を崩すことが解決だと思った人は社会主義へのほうへ行き、領土を広げ植民地から富を得ることで解決しようとした人は軍国主義へと走った」……そして現実に「軍国主義」が選択されたのです。(原田秦『世相でたどる日本経済』より)

このように戦争を「問題解決の手段」として考えることもある。戦争によってあるべき姿=正義を実現しようとするわけです。

それはまったくの誤りですが、「そう考える人がいる」ということは、戦争と平和について考える一つの視点として知っておくべきでしょう。

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また「問題解決」というのは、国内の社会問題についてだけではありません。国家間の緊張や対立にもあてはまります。

たとえばある国(とくにその指導者)が、国際関係のなかで自分たちが不当な扱いや圧迫を受けていると考えたとする。現実にどれだけのことがあったかはともかく、これはその国にとっては「大問題」です。

そして、その問題解決のために軍事力で自分たちの領域を拡大し、より納得のいくかたちで力の均衡をつくりだそうとすることがある。

昭和の日本の戦争には、このような国家間の「問題解決」をめざした面もあります。

つい最近も、こういう「問題解決」をはかろうとする戦争が起きてしまいました。

しかし、軍事力が巨大化した現代においては、戦争こそが最大・最悪の「問題」のはずです。それでも、戦争を問題解決の手段と考える発想は、今も大きな力を持っている。

この現実を自覚するのは(残念なことですが)大事です。それは「戦争による問題解決」というまちがった発想が力を持つのを防ぐうえで必要な自覚だと思います。

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