そういちコラム

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意義ある創造は一度きり・紙の発明から考える

実用的な紙が発明されたのは、2000年前ころの中国です。その製造法は「樹や草からとれる植物繊維をほぐして一定の成分が入った水に溶かし、網ですくいあげて固める」というもの。

紙以前にも、古代エジプトにパピルスという、紙に似たものがありました。パピルス草という水草を薄く切ってタテヨコに貼りあわせたもの。

しかし、紙のように折ったり綴じたりできる丈夫さに欠けていましたし、パピルス草の産地は限られていました。

その点、紙はずっと丈夫で、紙の材料に適した植物は各地にありました。このように紙はすばらしい発明だったので、のちには世界中でつくられるようになったのです。

では、紙(製紙法)の発明は、一度きりのものだったのでしょうか?それとも、このくらいの発明は、別のときに中国以外でも行われたのでしょうか?

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紙の発明は、歴史上一度きりのものでした。世界で今つくられている紙は、その起源をたどると、すべて中国での発明に行きつきます。

製紙の技術は西暦700年代にイスラム世界へ、1200年代までにはヨーロッパへと、世界に広まっていきました。その間、世界のどこかで独自に製紙法が発明されることはありませんでした。本格的な発明というのは、めったにないことなのです。

紙ほどの大発明でなくても、ほかにも似た話はあります。たとえば「安全ピン」は、1840年代にアメリカで発明されたものですが、2500年前のローマの遺物の中にも同様のものが発見されています。

しかし、それは後世には伝わりませんでした。そして2千年以上経って、「再発明」されたわけです。2千年の間に、安全ピンくらいのものはどこかで発明されてもよさそうなのに、それはなかった。意義ある創造というのはそれだけ困難で、「一度きり」といえる面があるのです。

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