これからの日本は、水害や地震などのリスクが高い「災害の時代」になっていくのかもしれません。政府は防災のための投資を増やす必要がありますが、そんな財政の余力があるかどうかは疑問です。
だとしたら、自分でできることは何か。ある専門家は「とにかく災害から適切に避難することだ」と言っていました。
でも、避難のあと家に戻ると、家が崩壊したり埋まったりしているのはやむを得ないというわけです。命は助かっても、それでは辛いなあ……
これからは、災害に強い地域は地価が上がって富裕層が集まり、ぜい弱な地域は庶民が暮らすという「分断」が起きるかもしれません。
そして、庶民のなかには(「ミニマリスト」のように)わずかな家財道具で賃貸の家に暮らし、災害時には持ち物をスーツケースひとつにまとめて避難するといった人が増えるかもしれません。こういう人は、災害時でもダメージは比較的少ないです。
火災が多かった江戸時代の長屋暮らしは、まさにそんな感じでした。
江戸の庶民は、家財道具をためこむ志向は弱かった。それは貧しさのせいだけでなく、いつ火事にあうかわからなかったからです。タンスは持っていないし、長屋には押し入れもない。
つまり、柳行李(大きくない衣装箱)ひとつにおさまる衣類、最低限の茶碗や湯呑みくらいで暮らしていました。しかも中古ですませることが多かった。余裕があれば飲食や芝居などの、モノを買う以外の楽しみにお金を使う傾向がありました。
災害にかぎらず、社会で不安定・不透明な要素が増すと「身軽である」ことは、大きな意味を持ちます。明るい話ではないけど、そうなっていく気配を、私はときどき感じます。
江戸の長屋の再現(江戸東京博物館)