私そういちは、現在築40年余りになる団地に、リノベーション(全面改修)をして住んでいます。リノベをしてからもう15~16年経ちます(リノベの設計は寺林省二さんによる)。
団地の魅力は、緑豊かな環境、日当たりのよい間取り、安い物件価格……といったこと。
でも、「団地は理想の住まい」とは思いません。本当の「理想」といえば、集合住宅より一戸建てで、便利でかつ閑静な場所で、広くて立派で……ということになる。
しかし、そんな家はまず買えません。私たちには多くの制約がある。団地リノベは、そんな制約の中での一つの選択肢です。
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住まいで私たちが「満足」「納得」に少しでも近づくには「妥協の組み合わせ」をさぐることではないでしょうか。
例えば、郊外に行くほど同じコストで広い家に住めます。もしも「どうしても広さが欲しい」なら、通勤などが不便でも郊外に住むことになるでしょう。逆に、通勤の便利さや都会的な楽しみを優先するなら、広さを犠牲にすることになるはずです。
「郊外か都会か」というのは、多くの人にとって、どちらも一定の妥協を含んだ選択肢です。
もちろん、実際はこんなに単純ではありません。検討すべき項目はもっと多くあります。各項目についても「広い・狭い」のように単純に分けられるものではなく、程度や中身はさまざまです。
間取りや設備も、たいていの家には欲しいものを全て詰め込むことはできないので、私たちは妥協をしないといけません。広い玄関、充実のトイレやバス、こだわりのキッチン、収納もたっぷり、といったことを全部実現しようとすると、リビングがうんと狭くなったりする。
だから、「欲しいもの」の間のバランスを考え、メリハリをつける。それが「妥協の組み合わせをさぐる」ことです。
あたり前のようですが、住まいを考えるとき、かなりの人がこのことを見失って混乱してしまうように思います。
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私はこの十数年、自分の団地のリノベの住まいに(コスト面も含めて)納得して住み続けることができました。
私には、家で読んだり書いたりすることがまず大事(書道教室を営む妻は、家で作品を書いたり事務仕事をしている)。そのほかは簡単な料理をつくって、のんびり飲み食いする。
あとのことについては関心が薄いので、全体的に割り切った簡素なつくり。そういう妥協の組みあわせが、うまくいったのではないかと思います。
なにしろ近頃は不動産価格が高騰しています。つまり、コストの制約がきつくなっている。「妥協の組み合わせ」ということは、一層重要なはずです。
我が家のリビング・食事コーナー。本棚が多い家です。
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