そういちコラム

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騎馬遊牧民が史上初めて登場したのはいつ?

騎馬遊牧民とは「草原地帯に住んで馬を乗りこなし、遊牧(羊などの家畜を移動しながら育てること)によって暮らす人びと」の総称です。

彼らの根拠地はアジアからヨーロッパにかけての草原地帯。そこをおもな舞台に「トルコ系」「モンゴル系」など、世界史上さまざまな騎馬遊牧民が活動しました。

では、騎馬遊牧民が史上初めて登場したのはいつ頃だったのでしょう?

【選択肢】
ア.1万年前(世界の一部で農耕が始まった時代)
イ.6000年前(メソポタミアなどで最古の文明がおこった時代)
ウ.3000年前(世界の一部で鉄器が普及し始めた時代)
エ.2000年前(ローマや漢が繁栄した時代)

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史上初の騎馬遊牧民が登場したのは、今から3100~3000年前の、今のウクライナにあたる地域でのことでした(正解ウ)。この最古の騎馬遊牧民の当時の呼び名はわかりませんが、現代の学者はキンメル人と呼んでいます。

騎馬は一見原始的にみえますが、じつは高度な道具が必要な技術です。

安定して馬に乗るための「くつわ(はみ)」「あぶみ」などの馬具は、精密さや耐久性が求められますし、部品の要所には金属も要ります。弓矢などの武器にも金属が必要です(なお、あぶみは比較的新しい発明で、現在確認できるところでは2400~2300年前の図像が最古)。

なので、鉄器などの金属器が普及するほどに技術が発達しないと、騎馬遊牧民というのは成立しません。3000年前というのは、先進的な地域では青銅器が広く普及し、鉄器時代が始まろうとしていた頃です。

原始的な騎馬であれば、ウクライナや周辺の草原地帯で6000年前には行われていました。それは移動や家畜の管理などの生活のためのものでした。のちの時代のように高度な道具や組織的・軍事的な行動を伴なうものではなかった。

騎馬遊牧民とは、騎馬のスキルを単に生活に用いるだけでなく、騎馬軍団を組織できる技術やリソースを有する人びとのことなのです。

なお、馬車の発明は約4000年前のこと。ここでいう「馬車」は、高速移動ができる「チャリオット」といわれるものを指します。

チャリオットの発祥の地ははっきりしませんが、その頃から西アジア(今のイラク・シリア・エジプトなど)の一部で用いられるようになりました。騎馬の発明(約3000年前)は、馬車の発明よりずっと後のことなのです。

つまり、騎馬のほうが馬車よりスピードが出て、デコボコ道も行ける、より進んだ技術ということです。「騎馬は素朴なもので、馬車のほうがより進歩したものだ」と思いがちですが、そうではないのです。

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騎馬遊牧民が武装して集まると、機動性に優れた強力な軍事力になりました。中でもチンギス・ハンやその後継者が率いる13世紀のモンゴル人は、史上最大とされる大帝国を築いたのでした。

騎馬遊牧民というと「自然で素朴な人びと」というイメージがありますが、もともとは、騎馬という高度の技術を駆使する「強者」だったのです。

我々農耕民とは異質だけど、高度の文明を持つ人びと。そんな人たちが強く存在感を放つ「今とはちがう世界」があったのです。 

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