そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

今日の名言 カエサル 見たいものしか見ない

【今日の名言】
カエサル(ローマ帝国の基礎をつくった、事実上の初代ローマ皇帝、紀元前100~前44)

人は見たいものしか見ない。

これは、2000年余り前に数々の戦争や政治的な闘争を勝ち抜いた、ユリウス・カエサルの言葉を元にしています。

私たちがこの言葉を知ったのは、かなりの場合、作家・塩野七生さんの著作と、それを元ネタとする文章からではないかと思います(私もそうです)。

塩野さんは、原典であるカエサルの『ガリア戦記』の一節を、つぎのようにわかりやすく意訳しています。

“人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない”

(『ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)ローマ人の物語8』新潮文庫)

同様の名言は他にもありますが、カエサルの言葉は古典中の古典といえるでしょう。そして、今の時代には一層重みがあると思います。

たとえばインターネットで自分の志向にあう情報ばかりを取り入れ、その方向で凝り固まっていく(エコーチェンバー現象、エコーチェンバー=反響室)。

そして、その人の志向=検索をふまえた広告やコンテンツが提示される機能が、それに拍車をかける(フィルターバブル、偏った情報のバブルに閉じ込められること)。

あるいは、客観的な・検証された事実よりも、感情に訴えるフェイク情報が世論に影響をあたえてしまうことも近年は目につきます。つまり、ウソであっても「見たいもの」を信じてしまう(ポスト・トゥルース=脱・真実)。

この手のことが、この10年くらいでよく言われるようになりました。

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そこに共通するのは「人は見たいものしか見ない」ということです。人にはそういう「認知バイアス(ものの見方や考え方のクセ・歪み)」があるということ。この言葉も最近よく見聞きします。

自分の信念に沿う情報ばかり集める(見たいものしか見ない)のは、「確証バイアス」という認知バイアスの一種だそうです。

そのような「バイアス」を自覚することが、「見たいものしか見ない」傾向を緩和する第一歩なのでしょう。

最近では、ロシアの指導者も「見たいものしか見ない」ことの罠に陥ったようです。イエスマンの部下があげてくる耳触りの良い情報を信じて隣国への侵略を行ったところ、思った以上の抵抗にあって計画に狂いが生じています。

独裁者というのは、油断していると取り巻きによる強力な「エコーチェンバー」「フィルターバブル」にはまって抜けられなくなるのです。

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人によって見え方は違うが、実体(真実)はひとつ

 

さまざまな「認知バイアス」について知るのに良い本。脳の研究者がわかりやすく簡潔に述べている。