そういちコラム

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国家は「幻想」ではなく、現実的な「利害の共同体」

「国家というものは、ある種の幻想だ」という説あります。私は、これはちがうと思います。私は「国家にはそれなりの現実的な成立根拠がある」という立場です。

今の世界の国ぐには「国民国家」です。「国家」というと、多くの場合、国民国家をさします。これは近代の産物。近代以前の国家は「ゆるい統合」でまとまっていました。それを、できるだけ広い範囲で「強い統合」で一つの国にしたのが国民国家です。

たとえば、江戸時代の日本は、幕府によって一応まとまっていましたが、独立性の高い多くの「藩」の集まりでした。幕府といえども、人びとに税を課すことができたのはその直轄領の範囲だけ。各藩の領民はあくまで各藩が支配する。これが「ゆるい統合」ということです。

これを再編成して、ひとつの政府が直接に全国の人びとを統治し、課税できるようにしたのが、明治維新です。国民国家とはそういうことです。

明治維新の背景には、欧米列強の脅威がありました。欧米の植民地にされないためには、まず軍事力が要ります。多くの大砲や軍艦を持たないといけない。そのばく大な費用は、藩や幕府ではまかないきれません。

そこで日本を国民国家として一つにまとめ、その財政でめいっぱいの軍備をしようとしたのです。

また、全国レベルの統一的な経済圏が確立したことで産業・経済が発展し、生活の向上もありました。

このように「欧米列強の脅威に対抗する」「産業・経済の発展」といった現実的な「共通の利害」が、明治の国民国家のベースにはあったと、私は考えます。

つまり、国家は「幻想」などではなく、現実的な「利害の共同体」なのです。

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国民国家の草分けのひとつは英国です。イングランドとスコットランドが統合された1700年代に、国民国家としての英国は生まれました。

そして広い範囲から税金を集め、さらに「税金を集める力」を担保に国債をさかんに発行して借金しました。それで得た資金で、軍事力を強大化したのです。英国に対抗して、1800年ころ以降はほかのヨーロッパの国ぐにも国民国家を志向しました。

もしも戦争のない平和な世界になれば、国民国家は不要になるかもしれません。

数年前に「スコットランドが英国から分離独立するかも」ということが話題になりましたが、これは今の西ヨーロッパが平和だからです。

「小国でも侵略される危険はない」という前提があるから、「分離独立」を真剣に考える気になるのです。

しかし、今の世界のかなりの地域では、たいていの国家が(とくに中小の国家は)つねにほかの国から攻撃や圧力を受ける危険にさらされている。それが、残念ながら現実のようです。

自国が征服されれば、自分たちが共有してきた社会の安全、価値観やプライドなどの「共通利害」は、深刻なダメージを受けます。

「国家は幻想だ」という見方は「国家を過大視する、歪んだナショナリズムを是正しよう」という思いに基づくのかもしれません。しかし、社会や世界の現実を無視している面が多々あると思います。

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