そういちコラム

数百文字~3000文字で森羅万象を語る。挿絵も描いてます。世界史ブログ「そういち総研」もお願いします。

新国立競技場と大人しくなった日本

東京オリンピックのメインスタジアムの新国立競技場(設計・隈研吾)は、巨大だけど周囲にも調和する、たしかに立派な建築です。

しかし一方でその前に立っても、あれだけ大きいのに「ものすごい」という感じで迫ってはこないように、私には思えます。

これに対し、一度はこの競技場の設計コンペで採用されながら、予算オーバーなどの理由でボツになった、海外の建築家ザハによる案は、宇宙船のような未来的でとんがったデザインでした。

それに違和感を持った人も多く、私もその1人。でも今は「あの“UFOのオバケ”も面白かった」と思います。

新しい国立競技場の設計者・隈研吾さんは、小学生のとき、前の東京オリンピックで建てられた代々木体育館(設計・丹下健三)をみて、「すごい、なんて格好いいんだ!」と感動したそうです。

たしかにあの代々木体育館には、子どもにも(一定の感性があれば)わかるストレートな「すごさ」「格好良さ」があります。そしてそのような要素は、実現した隈さんの案よりも、ボツになったザハ案のほうにあったのではないか。

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ザハ案のような建物は周囲からは浮くでしょう。しかし、東京は元々デザインの調和とは無縁の、古いものと未来的なものが混在する都市。ザハ案が実現していたら、そんな東京の新しい象徴になったかもしれません。

でも私たちは、結局無難な選択肢を選びました。それは今の日本が良くも悪くも成熟して大人しくなったことをあらわしているのです。

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